第四章、その8の2:迫る脅威
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に駆られた表情で叫ぶ。
「盗賊が動いた!真っ直ぐこっちに向かってきます!」
『っ!!』
無言のどよめきともいうべき、胸を掴まれるような緊張感が走った。エルフらの男達やキーラも、ユミルも、そしてイル=フードもまた、遂に森へと迫り来る戦の予感を如実に実感したのだ。ユミルは無言で、腰に吊り下げてある剣の鍔を撫でた。
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秋の終わりともいうべき肌寒さを感じさせる北風が、王都の石造りの宮廷を掠めた。つい二週間ほど前まではまだ暖かさを感じる事もあった。丁度兵団や騎士団が軍事演習のために出立した日もそうであった。しかし気候とは度し難いもので、僅か10日ばかり経過した程度で一気に衣替えを人々に強いるのである。御蔭で今王都では冬物の衣料に対する需要が急増しており、毛皮職人が汗を垂らして毛皮を卸しているのであった。
一人の老人が宮廷の一室から、二重の防壁に囲まれた王都の街並みを見詰めていた。頭頂部に火傷の黒い痕が残る、蛇面の老人だ。常日頃より部下から恐れられている顔付が、今日に限っては更に厳めしいものとなっていた。
「・・・どうした事だ。マティウスめ、なぜ帰還しない?」
老人、レイモンドは不満を十二分に滲ませて呟く。同朋ともいうべき気の許せぬ魔術士の鳩面が、レイモンドの脳裏に浮かび上がる。興味の無い者にはとことん冷たい男だ。道草を食っているとは思えないのだが、しかし現実を鑑みるにそうとしか考えられないのも、また事実であった。
レイモンドは重苦しい息を吐いて窓の幕を閉めると、背後で控えていた美男子、ミルカに向かって尋ねた。
「ミルカ。学会からちゃんと書簡を受け取ったのだろうな?」
「はい。梟便でありましたが、確実に受け取ってあります。マティウス様は当初の予定ならば三日前には王都に戻っている筈です」
「だが戻ってきていない。これは一体どういう事だ。帝国で何をしている?」
「あの御方の事です。血生臭い道草を食している事でしょう。三度の飯よりも人を破壊する事が何よりも好きな御方と聞いておりますから」
愛すべき騎士は自分と同じ事を考えているようだった。付け加えられた過激な言動は、若さによるものだろう。レイモンドは苦笑気味に答える。
「あながちその噂は間違ってはおらんな。悪趣味な所だけが奴の取り柄なのだから・・・。追って遣いを出そう。それで帰還せねば奴は王国から亡命したものと見做す。その時は・・・いいな?」
「はい。暗殺部隊を送り込みます」「それでいい」
まぁ、仮に送った所で殺せはしないだろう。そんな本音を胸に仕舞うと、机の上に置かれた水晶の中にゆらりゆらりと小さな波が立ち始める。それはやがてホログラムのように明瞭な映像を映し出す。一人の若い男の顔が水晶の中に現れ、そこからくぐ
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