第四章、その8の2:迫る脅威
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はい」
「その作戦は確かに大きな効果を齎すだろう。俺も盗賊がまともに軍略を使えるとは思っていない。これほどの大掛かりな火計ならば、必ず奴等は狼狽し、身を焼かれるだろう」
「・・・」
「だが、俺はこれを容認できない」
キーラの目端をぴくりとひくついた。涼やかに見える瞳の奥で反感の火が点るのが見える。しかしユミルは思慮が及んだ冷静な言葉を彼女に投げつけた。
「お前の作戦は冷酷すぎる。敵を斃す、ただ一点にのみ注意を払っている」
「だ、だって当然ではありませんか?賊徒を倒すためでしょう?」
「そのためにエルフの森を焼き払うのか?キーラ、此処に過ごして何も学んでいないのか?お前は今、積極的に、彼らの故郷を焼き払おうと言っているのだぞ。彼らが住む家や、心の拠り所を」
「・・・」
彼女の瞳の火は和らぐ事は無かった。その通りだ。戦略的にも戦術的にも、彼女の提案した策の方が現状に効果覿面であるというのが明らかであるからだ。此処に滞在する間に彼女は開花させたのだろう。冷徹な為政者となるに相応しき、才能の片鱗を。
だがしかし、ユミルが望む未来には、彼女の策が実行される事は有り得ないのだ。森が燃やされる事など彼は望んでなかった。
「俺達の目的はただ勝つためだけじゃない。生き残る事なんだ。盗賊はあくまでも序の口に過ぎん。後一月もすれば冬が来る。北の冬はお前が思っている以上に過酷で、非情だ。なればこそ、寒さを和らげ、そして暖の材料となる薪を得るためにも、木々は多く残しておかねばならん。何百年という時が作り上げた天然の家々を、我らの勝手な事情で刈り取ってはならんのだ。
それにな、此処にいる者達だけが、この森に住む全てのエルフではない。まだ西方には魔獣討伐隊が居る。此処を故郷としている者達だ。彼らの家々が自分達の与り知らぬ所で勝手に消失し、彼らの家族が途方に暮れて地べたに座り込む。そんな様を見せてやりたいと思うのか?」
ユミルの言葉を聞き、キーラは初めて思いついたかのように目をはっとさせた。気まずげに視線を泳がせ、握られていた手はゆっくりと力を失っていく。漸く彼女は自らの作戦の真の犠牲者を悟ったのである。彼女は一種の罠から目を覚ましたのである。計画を代案するという責任から思考が硬直化し、自分の正しさに必要以上に拘ってしまう。そういう罠に嵌ってしまっていたのだ。
反抗の火を鎮めて意気を落とす彼女を、エルフらは勝利の表情で見下した。ユミルは励ますように言う。
「まだ俺達には時間がある。手段を吟味する時間が。今は皆で案を出し合って、何が良くて何が悪いのか、しっかりと確認し合うのがーーー」
「御主人っ!!!」
室内の意識が一点に向けられた。会議の只中に飛び込んできたのはパウリナであった。息を整える暇など無いかのように、焦燥
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