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愛しのヤクザ
第十八章 エピローグ
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がにこやかに答える。
「いえ、いえ、こちらこそ…不調法で」
堤は、先に行っていると言い残し歩き出した。後ろ姿を見やりながら則子が言う。
「鯨井が組を解散して、今、あの人右翼やってるの、ほら、バスに乗って、がなっているやつ。そっちの方がヤクザより向いていたみたい」
林田がへーと言って話題を変えた。
「それはそうと、またべっぴんさんになったね。ところで、今、どこにいるんだ」
「立川に店を出してるの。小料理屋、安くしとくから飲みに来て。これ、名刺。そこに住所が書いてあるから」
「ああ、行く」
則子が何か思い出したような表情を浮かべた。
「そうそう、堤のことで嘘言っちゃたけど、ごめんね。別に隠すつもりはなかったけど、何であんた達が知っているのか不思議で、つい本当のこと言えなかった」
「そんな昔のことで謝られたって、もうそんなこと覚えていねえよ。それよっか、今度、本当に飲みにゆくよ」
「そうして」
 則子は最後まで相沢を無視し、林田に別れを告げた。じっと見詰める相沢の横を通り過ぎて行く。相沢は振り返りその後ろ姿に見入った。林田が則子に声をかけた。
「こんど、3人で行くから。俺と林と、それから課長さんと」
 則子の歩みが止まった。すこしたって、ゆっくりと振り向いた。その視線は相沢に注がれている。そして笑みを浮かべた。相沢もそれに応えた。その微笑みは二人の心のわだかまりを溶かしていった。則子が踵を返し歩き始める。

 3人は遠ざかる則子の後ろ姿をじっと見ていた。清水が口を開いた。
「いいな、二人は。俺なんて、久美子さんは、後ろ向いてて声しか聞かなかったし、則子さんは噂でしか知らない。もうちょっと早く健康ランドに就職していたら、二人と知り合えたのに」
林田が言った。
「清水、縁っていうやつがあってな、縁のある人どうし糸で結ばれているんだってさ。そいつが引き合うのさ。清水が俺たちと縁があるってことは、久美子や則子とも縁があるってことだ。来世では恋人になってるかもしれねえ」
「先輩、来世まで待てません。今度その店に行く時、俺も連れてってください、お願いします」
相沢は林田が自分と同じ考えを持っているのに驚いた。来世も本当にあるような気がして
きた。縁といえば、もう一人、林がこの場にいないことが寂しかった。
「ところで、林はどうしてるの?」
「元気でやってるよ。赤ちゃん本舗に就職して今じゃ店長だ。そうだ、おい、清水、3人じゃなくてお前を入れて4人で飲みに行こう。林には、あの日のひったくりの話はまだしてねえんだ。その話をしてやってくれ」
「例のはなしですね。山本が泣いていたことや、金をやる、金をやるから、これだけは勘弁してくれって叫んだことでしょう」
相沢が二人に声を掛けた。
「それじゃあ、とりあえず、今日は3人だけで飲みますか
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