第十八章 エピローグ
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
ど……、結局あの日、やったん?」
涙に潤ませた目を拭い、相沢は笑顔をむけて答えた。
「いや、やらなかった。やろうとしたけど、拒否された」
黙って聞いていた清水がすっとんきょうな声をあげた。
「えー、やってなかったの。あの日、久美子さんが、あの喫茶店で『抱いてくれてありがとう』って言ったから、てっきりやったとばかり思って、林田さんにそう言ったんだ、ねえ先輩」
林田が清水の頭をひっぱたいた。
「馬鹿野郎、全然ちがうじゃねえか、お前の言ったこと。この5年間思い違いして過ごし
てきたってことだ」
清水が小さくなってバツが悪そうな顔で相沢をちらりと見た。林田が続ける。
「やっぱりなー、あいつらしい。でも、思い切って聞いて良かった。本当に良かった。心が晴れた。全くあいつは意気地のねえ奴だったから」
相沢ははたと歩みを止めた。遠くに見覚えのある顔を見つけたのだ。寺の境内の裏に臨時駐車場が用意されていた。そこに相沢は堤の姿を見いだしたのだ。あの長髪と彫りの深い顔はよく覚えていた。健康ランドに乗り込んできたヤクザだ。
堤は車の横に立っていたが、一方のドアからサングラスをかけた女が降り立つと、先に歩き出した。女は少し急いで堤に追いつくと、並んで歩く。相沢はその女をじっと見詰めた。サングラスをしているが、その女は間違いなく鵜飼則子だった。
林田も気付いたようだ。立ち止まって見詰める相沢を振り返り、声をかけてきた。
「相沢さんも気付いたか。あの二人、俺の睨んだ通り、やっぱり関係していたってわけだ。
則子の奴、惚けやがって。でも、則子にも会えるなんて、嬉しいね、ねえ、相沢さん。きっと久美子の取り計らいだ」
相沢はこの偶然が偶然とは思えなかった。やはり久美子の言っていた糸は存在するのだ。そして縁のある人々はその糸によって引き寄せられる。こうして則子と会えるなんてこれほどの喜びはない。たとえ、その別れがぎくしゃくしていたとしても。
堤と則子が相沢達に気付いたのはだいぶ近づいてきてからだ。始めに則子が相沢を認め、小声で堤に囁いた。堤は顔をしかめて三人を睨みすえ、そしてそっぽを向いた。則子は俯き、ゆっくりと歩いてくる。
相沢も歩みを緩めた。話をしたかったのだ。俯いていた則子が顔を上げて背筋を伸ばした。サングラスに隠された瞳は二人を捉えているはずだ。黒のドレスはやはり素人とは思えず、水商売が身に染みついている。
則子がサングラスをはずした。すれ違う寸前だ。林田が歩みを止め微笑む。則子も立ち止まった。その目は林田にのみ向けられている。相沢をまったく無視していた。則子がにやりと笑い、堤に話しかけた。
「あんた、何かと縁のあった方達なんだから、挨拶したら」
堤は二人を睨み付け、すこしだけ頭を下げて言った。
「どうも、その節は…」
林田
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ