第十八章 エピローグ
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を遠くから眺めた。読経の響く境内に一般参列者用のお焼香台が5台置かれている。長い列の最後尾から見ると髪を長く伸ばした、見覚えのない久美子が微笑んでいる。その写真は結婚直後のものらしい。
相沢は心の中で話しかけた。久美子、久しぶりだな。林田から聞いたよ。旦那と愛し合っていたそうじゃないか。よかったな。また好きだった旦那に会えるじゃないか。でも、もう一度、この世で会いたかった。
二人とも結婚していて、街でばったり会ったらいいな、なんて想像していたんだ。立ち話して別れるだけだとは思うけど、そんなふうにして会いたかった。もし、あの世があるって言うなら、そこで会おう。微笑み合って握手しよう。
焼香を済ませると、相沢達は足早に境内を抜け、裏の出口に向かった。マスコミに写真を撮られるなんてまっぴらだったからだ。3人は黙り込み俯いて歩いた。しばらくして林田が口を開いた。
「旦那が死んでから、あいつと飲んだことあるんだ。夜中だけど。そん時、相沢さんの話題がでたよ」
「へー、どんな?」
何でもないふうに装っていたが、胸の動悸が激しく息苦しいほどだった。
「いや、久美子が聞いたんだ、相沢さんどうしてるって?だから結婚して、香港から戻って、そんでもって出世したって言ったんだ。ただ、それだけ」
「彼女は、何か言ってた?」
「いや、ただ黙ってお酒飲んでいたよ。今度、相沢さんを呼ぶから一緒に飲もうかって言ったけど、返事しなかった。きっと、そうしてって言いたかったんじゃねえか、今から思うと」
相沢もそう思いたかった。林田に誘われれば相沢は飛んできただろう。それをしなかった林田を恨んだ。ふと、あの時の情景が浮かんだ。林田の叫ぶ姿がバックミラーに映されていた。相沢は振り向いてじっとその姿を見詰めたのだ。
「林田君、3人でデートした帰り、最初に林田君を降ろした。その時、僕と久美子が乗った車に向かって何か叫んでいただろう。いったい何を叫んでいたんだ?」
「そんなことあったけ?忘れちまったなあ。まあ、今更しらばくれてもしょうがねえか。今日は久美子の告別式だし、ばらしちまうか」
というとにやりとして言った。
「俺は久美子の心が手に取るように分かるんだ。だから、あの日、久美子が何を期待して
いたか分かっていた。最初はそれを何とか阻止しようと思っていた。だけど、なんだか久美子が哀れに思えて、最後には応援したくなっちまった。だから二人の乗った車に向かってさけんだんだ。久美子、やってもらえよーて」
これを聞いて相沢は何故か涙が滲んだ。林田が何か言おうとして言いよどんだ。しかし、もう一度、意を決したように口を開いた。
「こんな日に、こんなこと聞くのは不謹慎だけど、あの日、俺、眠れなくて苛々して女房に当たっちまった。まったく情けねえ人間だ。でも、今でも気になっているんだけ
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