第十七章 転勤
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ふたりはやきもきして、清水の登場を待った。
それは疾風のごとく現れた。フルヘルメットで黒の革の上下に黒のブーツ。出で立ちは決まっているのだが、オートバイはスーパーカブに毛が生えたようなおんぼろでナンバープレートははずされている。どこで助走を付けたのか分からないが、山本の後ろから音もなく近づいてゆく。
滑るように背後から接近して、直前で清水の手が伸びた。山本の左肩にかけたショルダーのバンドを左手でつかみ、山本の右側を走り抜けた。その直後いきなり爆音が響いてオートバイは加速した。
山本は一回転したが鞄はしっかり持っていた。しばらくオートバイと一緒に走ったが、転びそうになってその手を離した。清水のオートバイは農道に出るとあっという間に遠ざかり民家の家並みの中に消えた。
山本は唖然として立ち尽くしている。二階の窓から見詰める二人はごくりと生唾を飲み込む。山本がどう出るか。警察に連絡した場合も考慮した。結論はしらを切る。それしかない。そう三人で確認しあった。さて、山本はどう出るか。
二人とも無言である。山本も立ち尽くしたままだ。と、山本が歩き出した。とぼとぼとベンツに向かう。電話するとしたら、その場でするはずだ。山本の後ろ姿をじっと見詰める。しかし、ベルトに吊した携帯を取り出そうとはしない。
山本はベンツに乗り込むと30分もハンドルに覆い被さりうっぷしている。そしてようやく起きあがると、エンジンをかけ、走り出した。国道に向かった。
二人はふーと深い息を吐いて、その場にへたり込んだ。山本はとうとうどこへも携帯をかけなかった。
相沢が事務所に到着したのは、それから30分後だ。個室から声が漏れており、覗くと向井と林田、そして清水の三人がまだ五時前だというのにビールを飲んで気炎をあげている。相沢の顔を見ると、林田は机に並べられた缶ビールを取り上げ叫んだ。
「課長、乾杯しましょう、石田を追い出しました。ヒステリーを起こして叫びまくるもんで、ウララっちゅうモーテルの名前を言って、旦那に言いつけるぞって言ったら、目ん玉、ひん剥いて驚いていましたっけ。いやー、その顔、見せたかったなー、課長に」
「それで、どうなった?この様子だとやけ酒じゃないってことくらい俺にも分かる。つまり、成功したってことですか?」
向井が手招きしている。向井の横に腰掛けると、いきなり相沢の首に腕を回し、囁くような声で言った。
「山本の鞄を強奪した。清水を使って。警察に届けるかと思って不安だったけど、山本は届けなかった。ベンツの中で30分も考え込んでいたが、どこへともなく消えた」
強奪という言葉を聞いて驚いて向井の顔をまじまじと見詰めた。向井はにこにこ笑いながら言った。
「お礼をいうなら林田君に言えよ。俺はただおたおたしてただけだ」
林田に聞いた。
「強奪っていう
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