第十五章 悲しき性(さが)
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かったん?俺は則子を諦めて、金髪のスエーデン女で我慢したっていうのに、随分と冷てえじゃねえか」
「林田君は、その晩、いなかったんだから誘えるわけがないよ。それより、もしかして、林田君は君子に振られたんじゃないの?」
清水がそうだそうだと合いの手をいれる。憮然として林田が答えた。
「振られてなんかいねえよ、ケツ触ったら、バシって頬を張られただけだ」
相沢と清水は腹を抱えて笑った。清水が笑いながら言った。
「偉そうに誰とでもやる女は女房にも恋人にも向かないなんて言ってて、結局、自分もやりたかったんじゃないですか、先輩こそ旦那にも恋人にも向かないですよ」
二人は笑い続けた。何とも言えぬ爽快な笑いだった。林田もつられて笑っている。目的を達した男達の満足感がそこにあった。
ようやく笑い終えると相沢が聞いた。
「そういえば、則子はあの鯨井組の堤と知り合いだったのかな?」
「いや、俺も気になって聞いたけど、否定してた。だけど、則子の言うことなんて分かったもんじゃねえ。俺は知り合いだったと睨んでいる」
「そいつに言われて、あんな所で働かされいるんだろうか?」
「いや、それはない。あいつは目標を持ってる。小さくてもいいから自分の店が持ちたいなんて抜かしてたけど、あれは本心だと思う。もう二千万貯めたって言ってたから」
ふーんと頷いた。確かに則子は強い意志の持っている。もう一つ気になることを聞いた。
「でも、やっぱり俺とは会いたくなかったんじゃないかな?」
「ええ、だと思ったから、会わせたんですよ。則子は目標を持ってる。でも心の何処かに疚しさを持ってた。疚しさを取り除くにはきっつい現実に直面するのが一番」
「俺と会うことか?」
「ええ、そうです。疚しさをもっている限り、成功なんておぼつかない。そんな疚しさなんて捨ててしまえばいいんです」
「そういうものかな」
「ええ、そういうものです」
林田の横顔をちらりと見た。その顔にどこか哲学的な雰囲気を漂わせていた。
翌日、出勤して事務所のドアを開けると、向井支配人が立ち上がって相沢を迎え、ちらりと視線を石田の方に動かし、注意を促す。そして口をこわばらせ、決められた台詞を話し出す。
「相沢課長、先ほど石塚調理長が来て、いよいよ最後通告らしいってこぼしていた。総務部に呼び出されたらしい」
相沢もちらちら石田を盗み見て答える。
「本当ですか、呼び出されたって、いつですか?」
「明日の午後一番で来るよう言われたとのことだ。とうとうその時がきたか」
二人して深刻そうに額を寄せ、考え込んでいる。
石田はパソコンに向かい、ようやく覚えたエクセルの表作りに余念がないという素振りで聞き耳を立てていた。明日の呼び出しのことは、山本からとうに耳打ちされている。そしてこうも言われたのだ。「いいか、正念
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