第十五章 悲しき性(さが)
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そうしていたかったが、時間も気になった。林田は値段の安いショートのお客だ。でもサービスしてやろうと思った。
体を少し離し、指先で林田の顎を上に向け、唇を近づけた。林田が驚いて言った。
「キスは大事な人に取って置くんじゃ・・」
体はゆるしても、キスは恋人のために取っておくという商売女の唯一のプライドのことを言っている。ふふっと笑って、則子は林田の唇を塞いだ。
その後、林田は豹変し、もう一回、もう一回とねだり、最後には土下座して頼んだ。それでも時間内に終わったのだ。ふっふ、と思い出し笑いを漏らした。それなのに何故、今日はこんなことになったのか?やはり相沢にこんな姿を見られたくなかったのか?
相沢はのそのそと立ち上がり、着替え始めた。その姿を鏡ごしに則子がじっと見詰める。どう対応したものか迷っていた。互いの欲情が果てるまで絡み合ったのだから、気心が通じてもよさそうなのに、二人の心は離れたままだ。
相沢が着替え終わり、立ったまま何か言おうとしている。則子の心は揺れた。「外で会いたい」という言葉を期待する自分に舌打ちした。一瞬、食事したり、ドライブしたりするシーンを思い浮かべた。普通の恋人みたいに。しかし、そんな思いとは別なところから言葉が出たのである。
「相沢さん……、もう来ないで」
相沢がじっと見詰める。則子の心情を推し量るように。則子も毅然とした表情を保持している。「分かった」と呟くように言って、踵を返した。ドアに手を掛け、一瞬、動きを止めた。則子の鼓動が動きを早めた。しかし、相沢は後ろも振り向かずドアから消えたのだった。
則子は短くため息をついた。相沢とはもう二度と会うことはない。一抹の寂しさはあったものの、これで何もかも、ふっ切れたと思った。
林田と清水が待合室で待っていた。林田が相沢の顔を見て言った。
「だいぶ抵抗されたみたいですね」
「えっ、ど、どうして分かったの?」
「だって、顔、引っかかれてますよ」
相沢が慌てて顔に手をやって血の滲んだ傷を探し当てる。そう言われればひりひりしていた。急に林田に腹がたってきた。
「林田君、ひどいじゃないか、何もかも知っていて、ここに連れてきたな」
林田がにこにこして、
「何を怒ったふりしてるんですか、良かったくせに、おい、清水行くぞ」
と軽く受け流し、出口に向かう。
外に出ると林田は清水の肩を抱き、なにやら話している。追いつくと、林田の声が聞こえてきた。
「俺も、愛の真理に気づいたのは、つい最近なんだ。動物王国って知ってるだろう、ムツゴロウさんがやっているやつ?」
「ええ、何度か見たことがあります」
「面白かったのは、ムツゴロウさんが、犬のチンポコをイタズラしたんだ。すると、犬はどうなったと思う?」
「さあ、どうなったんです?」
「それが、
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