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愛しのヤクザ
第十五章 悲しき性(さが)
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しげな声を上げたのだ。則子は自分のその台詞に唖然とした。まるで生娘ではないか。毎日何人もの男をくわえ込んでいるというのに。どうしよう。しかし、始めてしまったからには続けるしかない。演技を、である。
 相沢は抵抗する則子のなまめかしさに欲情をがそそられた。ブラジャーをはずし、その乳首に吸い付いた。則子は尚も抵抗を続けた、でも、そろそろ・・・、うーん、もういいかと思った。だから「あっ…」と切なそうな声をあげ抵抗をゆるめてゆく。そして、
「か、課長…駄目、駄目…ああ・・・」
と次第に喘ぎ声を上げ始める。欲望がじわじわと沸き上がる。演技がかえって欲望を誘ったのである。終いには相沢の首に手をまわし、自ら唇を求めた。
 
 ことが終わり、相沢は虚脱したようにベッドに横たわっている。則子は鏡台の前に座り、ほつれた髪を整えていた。則子は相沢に惹かれてはいたが、これまでの自分の人生を思えば最初から別の世界の人間だと感じていた。だから相沢の誘いをやり過ごしたのだ。
 でも、体が一つになった時に感じた喜びはひとしおで、自ら張り巡らせた垣根を飛び越えられたと感じた。なのに、ことが終わって相沢が吐いた一言が則子に冷水を浴びせることになる。「ご免、つい、かっとなっちゃって」と言ったのだ。
 拒む素振りはしたが、本心ではない。抱いて欲しかった。それが「つい、かっとなって」襲ったということか。むかっ腹が立った。愛おしくて抱いたのではないと言っているようなものだ。その怒りの感情が単なる言いがかりに過ぎないのは分かっていたが、則子は臭い芝居をしてしまった自分がやはり許せなかったのだ。

 相沢は無理矢理犯したと思いこんで、自責の念にかられているらしい。ふと、林田とのやり取りを思い出した。一ヶ月ほど前のことだ。今日と同じように驚きの対面となった。でも、則子はふて腐れたりはしなかった。
 そして、林田も緊張していた。だから、林田らしからぬことを言ったのだ。
「則子、だめだよ、こんな商売してちゃー」
則子は笑いながら答えた。
「そんなこと言うなら、やらしてあげない」
林田がにーっと笑った。その顔が可愛かった。
「ごめん、ごめん、つい緊張しちまって、おためごかしなこと言っちまった」
「しょうがないよ、突然の再会だし」
「まったく、思いもしない突然の再会だ。でも、会いたかったー、本当に会いたかったんだ。則子が消えちまってからというもの、気張っても気張っても、元気のゲの字も出なかった」
と言うと、則子の手をとった。暖かくて柔らかな手だった。そしてすっと引き寄せられ、抱きしめられた。「会いたかった」と何度もくりかえし、そのたびにぎゅっと力を込めるのだった。
 則子の心も体も次第に溶けてゆく。林田のぬくもりが胸から体全体へと広がって行き、今日の疲れを癒してくれる。ずっと、
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