第十三章 罠
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なんて思っているんじゃないだろうな」
この嫌味にはかちんときたが、ぐっと堪える。山本が勝ち誇ったよう顔を満足げに歪めた。片桐が言っていた、東映ヤクザ路線の顔とはこのことかと合点がゆく。
「いいか、驚くな、厨房の二番手の内村は入れ墨をしている」
こう言うとじっと相沢の目を覗き込む。相沢は驚愕の表情を浮かべるとともに、次に苦渋に満ちた顔を作る。それを知っていながら、今まで隠していたという表情なのだが、どこまで山本がそれを読みとったのかさっぱり分からない。
山本が引導をわたすような表情で言った。
「君の役目は内村の入れ墨を確認することだ。確認出来たら、苦渋の選択だが、厨房を全員入れ替える必要がある。いいか、俺たちはオープン以来、入れ墨対策にやっきになってきた。ところが、その内部に入れ墨者がいたとなればどうなる。責任は重大だ、分かるな?相沢」
「はい、分かりました」
うなだれて個室をでると、ぺろりと舌をだした。小躍りして向井の机の前まで行った。向井は目配せして石田の存在に気付かせる。相沢はすぐに気付いて、がくっとうな垂れる姿勢に戻した。石田は銀行回りに出掛ける準備に余念がなく、小躍りした相沢には気付いていない。
個室が開かれ、山本が事務所にいる石田に目配せしている。山本は余程機嫌が良いと見えて、珍しく事務所に声を掛けた。
「ちょっと銀行回りしてくる」
向井と相沢が複雑な顔をして、もう参りましたとばかりに声を掛ける。
「いってらっしゃいませ」
石田がぷりぷり尻を振って出ていくと、ようやく安心して相沢が話し始める。
「いよいよ、引っかかってきました。あと一押しです。次の段階に移りましょう」
次の段階とは、村田に内村の入れ墨をちらりと見せるのだ。勿論入れ墨はシート状になった貼るタイプのものだ。村田がそれを目撃し、山本にご注進に及べば嘘はすっかり真実に変貌する。
そして、翌日、昼過ぎ、午後2時、村田は厨房の奥で休む内村のちょっとまくし上げた右腕から現れた紛れもない濃い青色をした文様を目撃する。そしてあたふたと、その場を後にした。その後ろ姿を見て、内村がにやりと笑った。
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