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愛しのヤクザ
第十二章 陰謀
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腕はいいですから、私より3歳年上です」
 ほっとしたものの、一抹の寂しさが相沢を襲う。その寂しさを吹っ切るように内村のグラスにどぼどぼっとウイスキーを注いだ。
「相沢さん、俺、そんなに飲んじゃまずいっすから」
と言ったものの、すぐにグラスに手を伸ばし口に運んだ。若手がちらちらと内村をみている。
 一人が「やばー」と言うのが聞こえた。内村を見ると既に飲み干して、自分でグラスにどぼどぼと注いでいる。厭な予感がした。
 やはり大虎だった。調理長が寝込んでいる隙に羽目をはずしたいのだ。首に腕を回され、さっきから相沢は内村の愚痴を聞かされ続けている。
「あのアマ、石田だ、石田。あいつ、何とかならないのかー、えー。忙しいときに来て、冷蔵庫を開けさせて、伝票をひらひらさせて、何処にあるなんて聞きやがる。見せてやるよ、そんなに信用できないのなら。でも、暇な時間、夜9時以降とか、朝8時半前とかにやってくれって申し入れたら、私には家族がいますから、そんな時間には無理ですって言いやがる。課長だろうー、石田のアマは…」

 石田から山本に行ったり来たりしながら悪態は続く。その間「こらー、歌え」などと若手を怒鳴り、「それでよー、どこまで話したっけか?」などとうっぷんを吐き出すのに余念がない。相沢もしこたま飲まされて半分眠りながら話を聞く。
「あのアマ何か企んでいる。副支配人や村田とひそひそやりやがって、気分が悪くてしょうがねえ。そうそう、相沢さんに言っておくけど、相沢さんも標的になってるよ」
「標的?」
「そう標的。大広間の厨房寄りのウエイトレスから聞いた話だ。山本は相沢さんを地方のスーパーに飛ばしてやるって息巻いていたそうだよ。そのウエイトレスは山本のおごりで村田や石田と一緒に飲んだって言ってた」

 一挙に酔いが冷め、ひやりとする感覚が背筋を降りてゆく。山本はそれだけの影響力を持っている。ここでの成功はこれまで以上に安藤常務と山本事業本部長の立場を強くした。山本は現在名古屋で候補地を物色中で、鼻息が荒い。
「クソー」と歯がみして目の前を睨み付けた。睨み付けられた若手が声を掛ける。
「課長、どうしたんっすか、そんな般若みたいな顔して」
「般若、どれどれ…」
内村が首に回していた腕を解き、相沢の頬を両手で挟んで顔を自分に向けさせた。
「本当だ、般若だ、般若。そう、時には、そんな顔でことに立ち向かうことも必要だ。なー、課長。よーし、飲むぞー、今日はとことん飲むぞー」
 困惑顔の若手を尻目に、備え付けの受話器を取り、何本目か分からないがウイスキーのボトルを注文している。その目がちらりと横になって鼾をかく調理長に注がれた。

 その日、相沢は宿直室に泊まった。ふらつく足で部屋に入り、布団も放り投げるように敷いて、ばたんと横になった。一瞬にして深い眠
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