暁 〜小説投稿サイト〜
愛しのヤクザ
第十二章 陰謀
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
辺のお客にはもったいないって思っていたんだ」
 うんうんと聞いていた林田は、さっきまでうな垂れていたことなどすっかり忘れている。
「そうじゃないかと思っていましたよ。あんなに旨くて綺麗な料理を作る人達がまずい蕎麦を出すはずがないって。やっぱりだよ。よし、これで行こう。江戸庶民には高値の華、それが今じゃ八王子健康ランドの名物蕎麦、どうです、このコピー。電通だって思いつかない絶妙なヒーリング。いいなこれ。早速作んねえと」
 相沢が何と言おうと、勝手にポスターを作り壁にべたべたと貼っている林田のことだ、もうすっかり頭の中にデザインが浮かんでいるのだろう。相沢はほっと肩の荷を降ろしたのだが、石塚の態度に不安を感じた。明らかに最後通告を待ち望んでいる。

 相沢はいつもふて腐れたような態度の内村と話がしたいと思った。その機会はその日のうちに訪れた。帰りしな、石塚が事務所に降りてきて、相沢を酒にさそったのだ。今日のことは水に流そうという配慮だ。林田は夜勤明けで帰った後だった。
 厨房のメンバーは15人だが、その日一緒に飲んだのは調理長を含めて7人で、残りは遅番のため22時までの勤務だ。みな羽目をはずして騒いでいるようでも、やはり親方の目を意識しているのがわかる。師と弟子達なのである。
 内村は調理長の傍らを離れず、ウイスキーをちびちびとやりながらも、調理長がタバコを取り出すとさっとライターで火を点ける。カラオケに興じる若手の歌に手拍子するわけでも、合いの手をいれるわけでもない。
 二軒目のカラオケボックスで、石塚調理長はだいぶ機嫌がよかったのかピッチも早かった。ソファーに寄りかかり船を漕ぎだした。しまいには本格的な眠りに入り、鼾をかいている。内村がぽつんと言った。
「おやっさんは疲れているんです。料理屋なんて忙しい時間帯は決まってますから、それ以外はけっこう暇で休めるんですよ。でも、ここは違う。おやっさんがもう十年若けりゃと思います。もう45歳ですから」
「ええ、分かります。無理をしているのは」
「それに家族と離れてアパート暮らしでしょう。疲れなんて取れるわけないですよ」
しみじみとした口調に親方を思いやる心を感じた。相沢は気になることをずばり聞いてみた。
「内村さんや三番手の荒井さんを含め、メンバー全員がここにいることは反対みたいですねえ」
「ええ、おやっさんが1年だけ我慢してくれって言うから、我慢しているだけです。まして次が決まってますから。新装開店の店です」
 相沢はがくっと肩を落とした。契約更新はしないと言うのは本心だった。何とかなると考えていたのは甘かったのだ。
「それじゃあ、また腕のいい調理長を探さないと」
「その点は安心してください。私の兄弟子に当たる方が一家を構えてます。おやっさんはその方に話を繋いでいますから。その方も
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ