第十二章 陰謀
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の業者を使うように言ってきた。勿論断った。何故なら品質に問題があったからだ。だが問題はどちらの業者もおたくの仕入れ業者リストに名前が載っていないことだ」
こう言うと、石塚はどうだ参ったかとばかり二人を見詰める。確かに臭い話だ。しかし、今は、そんなことより、調理長の誤解を解くことの方が優先された。相沢が叫んだ。
「調理長、そうじゃないんです。今日、話したかったのは蕎麦のことです。あの緑色した…」
言葉が出ず、横にいる林田を促す。
「茶そば、茶そば」
林田の合いの手に答えて、相沢が続ける。
「そう、あの茶そばの件なんです」
石塚はぽかんと口を開いて、細い目をまん丸にしている。冷静な内村は、来るべき時が来たわけでないことに気付き、心の中で舌打ちしている様子だ。調理長が聞く。
「蕎麦だって。蕎麦がどうした?今度は、まさか蕎麦にミミズが入っていたなんて言うんじゃないだろうな?」
林田が顔色を窺いながら、恐る恐る言葉を選んで言う。
「実は…、私はそうは思わないのですけど、一部の客の中には、蕎麦がまずいと言う人がいるのです。その何て言うか、歯ごたえっていうか、どうもぱさぱさしてて、しっとりとした蕎麦の肌触りがないって言うんです」
怪訝な顔をして二人を見詰めていた調理長が、がくんと肩を落とし大きなため息をつく。そして一言。
「なんだ、そんなことか…」
急に力が抜けて、もう何も言いたくないといった案配だ。力なく笑って、内村に話しかける。
「おい、内村、俺たちの蕎麦が旨くないってよ。どうする、もっと安い蕎麦に変えるか?味の分からない奴に何を出しても同じだ。どうする?」
うんざりしたように内村が答える。
「だから言ったじゃありませんか。この辺で本格的な8割蕎麦なんて出してもしょうがないって。あれは懐石で腹八分目のお客にちょこっと食べてもらうから美味しいんですよ。まして高いのに課長に言われたからって分量を増やしたりするから赤字もいいとこです」
相沢も思いだした。お客からもっと大盛りにして欲しいという要望があり、調理長にその旨伝えたのだ。調理長は困惑顔でこう答えたものだ「これってちょっと高いんだ。でも、まあ、いっか」
林田が目を輝かせ聞いた。
「その8割蕎麦って、どういうもんなんです?」
内村が調理長に代わって答える。
「あんたらがふだん食べてるのは、蕎麦粉3割、うどん粉7割の蕎麦だ。あんたら、蕎麦の歯ごたえだ、肌触りだと言うけど、俺に言わせれば、あんなのうどん粉の歯ごたえ、肌触りにすぎない」
林田の目の輝きが増した。まったく分かり易い人間だ。内村が続ける。
「8割蕎麦は、歯ごたえ、肌触りが、江戸っ子の心意気にぴったりだった。でも8割蕎麦麦なんて庶民には高値の華で幻の蕎麦って言われていた。だから、うどん粉に慣れたこの
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