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愛しのヤクザ
第十二章 陰謀
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て、折り畳み椅子を用意する。相沢が答えて言う。
「調理長に、お話がありまして…」
と言うと、いきなり動悸が相沢の胸を襲う。一瞬にして口の中がからからに乾いたような気がした。心やすく接しているが、一つの道を究めた人に対し、その道のことについて口を出すということ自体が恐れ多いのではないかという不安が鎌首をもたげた。
 ちらりと林田を見て、肘でつついた。困惑顔で林田が口を開いた。
「いやー、調理長、そんなまじまじと見ないでください。こっちだって言いづらいことも言わなければならないことだってありますしー。そのー、何と言うか……」
 どうも林田も極度の緊張に陥っているらしい。ふだん使い慣れていない丁寧語がそれを物語っている。相沢は課長としての責務を果たさなければならないという義務感に駆られ、林田と石塚の人間関係におんぶしようとしていた自分を恥じた。
「調理長、ちょっとお話があります。怒らないで聞いてください。どうか気を落ち着けてください」

 そこまで言うと、石塚は手で相沢を制し、隣の座敷に二人を誘った。さっと立ちあがり、内村に何か耳打ちし、先に座敷に入って行った。二人して雁首揃えてその後に続く。二人が座ると石塚が厳かに口を開いた。
「さあ、話を伺おう。覚悟はできている。この日がいつか来ることは分かっていた。山本が考えていることは手に取るように分かる。俺を追い出し、自分の自由になる奴を入れたいんだ。そういう手合いと随分争ってきた。自分がやっているんだから、厨房だってやっているはずと思いこんでいる。だけど、俺はそんな不正などするような調理人じゃない」
 そこまで一気に言うと二人をじっと見詰める。二人だけは分かっているはずだと言いたいのだ。二人は顔を見合わせ焦って同時に反論しようとした。またしても手で制し続ける。
「どこに行っても繰り返されるイタチごっこだ。味と経営は別物だとつくづく思う。味だけで勝負ができないものかといつも考えてきた。でも、最近、人間社会に生きていれば、そんなことは高望みだと思うようになった。俺もようやく大人になりかけているのかもしれない」
 林田が息急き切って言葉を挟もうとする。
「調理長、調理長…」
「失礼します」
 二番手の内村がお盆にお茶を載せて入ってきた。林田も押し黙るしかない。来るべき時を期待する内村は、威儀を正そうとするのだが、その嬉しさを隠しきれない。お茶をそれぞれの前に置くと、調理長の傍らに正座した。石塚が続ける。
「これだけは言い残して置きたかった。人の悪口になると思ってこれまで誰にも話さなかった。しかし、首になるのだから言わせてもらう」
 林田が焦って言う。
「調理長、そうじゃなくって・・」
「黙って聞きなさい」
調理長の強い語調に林が圧倒され、調理長が続けた。
「山本は、最初、ある鮮魚と肉
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