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愛しのヤクザ
第十一章 乱交
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持ってゆく」
振り返りもせず、肩を震わせて歩いてゆく。振り返らないと決めていたようだ。相沢はその後ろ姿をじっと見詰めた。

 頬に一滴、涙がつたう。これで良かったのだという思いと、愛する者を失った悲しみが交互に訪れる。諦念という言葉が浮かんだ。諦めなければならないことは分かっていた。だとしたら、この辛さに堪えるしかないのだ。
 くっくっくという声が聞こえた。声の方を見ると、若者の肩が上下に揺れている。若者が惨めな自分を笑っている。相沢はその悲しみを若者におもいっきりぶつけた。
「おい、何がおかしい、女に振られたのが、そんなにおかしいか、この野郎。笑うんじゃねえ」
若者が怒鳴り返した。
「笑ってなんていねえよ。こんなことで笑える奴なんている訳ねえよ」
振り返った若者の目には涙が溢れていた。もらい泣きしていたのだ。ふん、というように後ろを向くと、ビールを飲み干した。そしてガラス越しに去りゆく久美子を目で追っている。手の甲で涙を拭う。久美子の後姿がホールから消えた。
 相沢は棚からウイスキーの瓶を取り出し、カウンターにグラスを二つ置くと、どくどくと注いだ。そして若者に声を掛けた。
「おい、若者、こっちに来いよ。ちょっと付き合ってくれ。飲まずにはいられない」
若者はカウンターの席につくと、おずおずと口を開いた。
「マスター、何て言ったらいいのか。あんまりにも可哀想で。マスターもそうだけど、あの女の心情を思うと…」
「何も言うな。同情の言葉も、慰みも、何も言うな。ただ飲めばいい。それより紹介し損ねて悪かった。あんまり急な出来事で、面食らっちまった。さあ、表の看板はずして来てくれ。今日はもう閉店休業だ」
「あの、俺、いや、僕、清水っていいます。若者じゃなくて清水って呼んでください」
「分かった、俺は相沢だ、よろしく。それじゃ、清水、看板頼む」
若者が立ち上がって外の看板をはずしにゆく。相沢はウイスキーを満たしたグラスを傾けた。ようやく飲み終えると熱い息を吐いた。頭がくらくらするが、まだ足りない。瓶を引き寄せ、グラスを満たす。今度は手首のスナップをきかせて喉に流し込んだ。

 翌日、ずきずきという頭痛で目覚めた。目に映る天井のシミを見て、いつもの六畳の宿直室だと気付いた。辺りを見回し、薄明かりに浮かび上がった尻を見いだし、度肝を抜かれた。期待に胸を躍らせたが、すね毛が濃く男のものだと分かってうな垂れる。
 記憶の糸をたぐり寄せ、その尻があの若者、清水のものだとすぐに合点がゆく。まさか、と思って尻の穴に意識を集中するが痛みはない。ふと、口の中がねばねばしているのに気付いた。まさか飲んだ?わーっと心の中で叫び、外に駆けだした。流しに行って蛇口をひねると水流を口に受け、がぶがぶと口をゆすいだ。
 まさか、まさかと焦りながら記憶の糸を手繰る
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