第十一章 乱交
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、高台での一時のことだ。
あの一瞬一瞬の思い。二人の息づかい、言葉、夜景、全てが蘇る。久美子が、ふーっとため息をつき、話題を変えた。
「相沢さんの勤務日を林田君に教えてもらったの。だいぶ迷ったけど、今日、やっと決心し来たわ。あんな事があったのに、何もなかったみたいに接するのって、思ったより辛いね。そう出来ると思ってた私って、まだ子供だったんだわ。本当に馬鹿みたい」
相沢は俺もそうだと叫びたかった。しかし、笑顔で結婚を祝福した男のセリフではない。相沢はビールを一気に飲み干した。
「でも、私って、ずっと子供だったような気がする。いつだって現実から逃れようと夢ばかり追いかけていた。でも、林田君のあの一言は痛烈だった。彼、相沢さんに期待しても無駄だって言ったわ」
「ああ、僕も聞いていた…、何を言っているのか意味が分からなかった」
「私、男の人に家のことを隠したことないの。だから恋愛なんて始まりもしなかった。でも、相沢さんは違った。本当に嬉しかった。でも、そうなってみると、思いのほか苦しくて切なくて、死にそうになっちゃった」
「実を言うと、僕もそうだった」
卒然と久美子の目からはらはらと涙が落ちる。相沢はその涙をじっと見詰めていた。そして言った。
「僕なんて君が思っているような男じゃない。僕は狡くて臆病な人間だ。君は僕の心の奥底なんて見えない。見えないからそんな風に言うんだ。君は僕を過大評価しているだけなんだ」
「いいえ、違うわ。今まであんなふうにしてくれた人、いなかった。家に帰ってもその余韻が残っていてなかなか眠れなかった。何度も思い出して、一瞬、一瞬を思い出して、心に焼き付けて、幸せを噛みしめた。家のことも知ってて、婚約のことまで知ってて、それでも抱いてくれた。本当に嬉しかった」
「違う、それは違うんだ。ただ、僕は自制心がないだけなんだ。君があまりに可愛くって自分が押さえられなかった。ただそれだけだ」
「いいの、それでもいいのよ。私にとって忘れられない思い出ができたんですもの。でも、それ以上のことを相沢さんに望むのは酷だってことも分かっているの。だから、だから、延ばし延ばしにしてきた結婚の日取りを決めたわ。もう後には戻れない。後に戻るなんて、この世界では許されないから。だから…今日…お別れに来たの」
大粒の涙が頬をつたう。胸を震わせ、しゃくり上げながら、微笑もうとしている。その顔はただ歪んだだけだ。そして声は殆ど泣き声になっていた。
「それじゃあ、さようなら、忘れない、あなたのこと」
言い終わると、きっぱりと席を立った。くるりと背を向け歩き出した。相沢は堪えきれずに声を掛けた。
「久美子さん」
久美子の背中がぴくんと反応して、歩みを止めた。相沢は心を込め別れの言葉を贈った。
「俺も忘れない。君のことは一生忘れない。墓場まで
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