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愛しのヤクザ
第十章 悪意
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 厨房との騒動を起こしたのは、やはり鎌田副支配人直轄の宴会場だった。それは料理に異物が混入していたという客からのクレームから始まった。これを聞きつけたウエイトレスの村田が騒ぎだし、鎌田に御注進に及んで抜き差しならない事態へと発展していった。
 知らせを聞いた向井支配人が急遽駆けつけ、お客に対処した。お客はさほど怒ってはおらず、ことのなきを得たのだが、その異物である瀬戸物の欠片は、鎌田と村田が抗議のための証拠品として厨房へと持ち去った後だった。
 急ぎ向井が駆けつけると、鎌田副支配人が大きな肩を怒らせ厨房の若手に向かって怒鳴り声をあげていた。
「こんな物が料理に入っていたぞ。一体全体、お前らはそれでもプロか?料理にこんな物が紛れ込んでも気付かないなんて、呆れてものも言えない。」
 若手は後ろを振り返り、二番手の内村に助けを求める。遅番勤務で厨房に調理長はいない。内村は鎌田を無視してスポーツ紙を広げている。向井支配人は困惑気味に内村に声を掛けた。
「おい、内村さん、ちょと来て、見てくれないか。こんな物が料理に入っていたと言うんだ。髪の毛一本が命取りになると言っている調理長のことを思うと、俄には信じられないことだけど」
村田はその言い方にかちんと来たらしい。
「変な言い方。まるで誰かがわざと入れたって言ってるみたい」
向井はぎろりと村田を睨んで言った。
「いいか、料理が出来上がってお客に届くまでに何人の手を経てると思っているんだ。それにその距離は何十メートルもある。あの料理に関わった全ての人がミスをした可能性を疑わないといけない。途中で茶碗が割れることだってあるんだ」
村田は向井の剣幕に一瞬ひるんだ。今度は鎌田副支配人に視線を向けた。
「おい、鎌田。何でそれを厨房のミスと決めつけたんだ?」
鎌田の目が一瞬泳いだ。
「別に決めつけたという訳じゃなくて、料理の中から出てきたのだから、当然厨房がミスを犯したと思ったんです」
「お客は料理の中から出てきたなんて言ってなかったよ。皿の端にちょこんと載っていたって。ミスを犯したのは、厨房と料理を置いておく中継点、そこに関わった全ての人たちの可能性がある。そうだろう、上に立つ者は常に中立じゃなくちゃ」
村田がふて腐れたように言い放つ。
「そう言う支配人は、いつだって厨房の味方じゃない」
にやりと笑って向井が言う。
「ましてや村田さんは、厨房と一悶着あったのだから、そのことも考慮しなけりゃ」
 村田はずっとオーダー係りをやっていた。次々とあがる注文をマイクで厨房に伝える役目で、村田本人はウエイトレスより一段上だと思っていたようだ。ミスが多いという厨房からのクレームでその役目を変えられた時は、そうとうショックだったらしい。最後までミスは厨房の方だと言い張っていた。

 そこで内村がようやく重
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