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愛しのヤクザ
第十章 悪意
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になって示談金をそうとう取られたって噂だ。いいか、あいつは一筋縄ではいかん。それを覚えておけ」
一瞬、真剣な表情をしたが、またしても言い放つ。
「あいつに先に殴らせればいい。そうすれば俺も殴れる」
相沢と林田が顔を見合わせた。林田が林の肩をつかんで大きく揺する。
「おい、冷静になれって言ってるのが分からねえのか。まだ借金が残ってるって言ってたじゃねえか」
林はにやりとして答えた。
「そうだった、借金もあった。大丈夫、大丈夫。俺だってこれ以上経済的に逼迫できねえんだ。分かった、分かった、冷静になるよ」
その表情はさきほどよりだいぶ落ち着いてきている。林田が肩を押さえて言う。
「そうか、本当か、本当だな」
いつもの林の笑顔が戻った。林田が続けた。
「いやー、一時はてっきり狂ったかと思ったよ、びっくりしたなー。いいか、林、あいつだってサラリーマンなんだし、どっかに飛ばされちゃうかもしれない。だから一時のことだと思って、ここは堪えろ。いいな」
「ああ、だいぶ落ち着いてきた。だから心配すんな」
相沢と林田は顔を見合わせ、頷きあった。林は立ち上がると、
「さあ、間違ったとこ訂正しねえと、ハルさんの給料が俺より多くちゃ、案配悪いかんな」
と言って笑った。二人はほっと安堵し、その背を見つめた。

 ほっとしたのもつかの間だった。給料計算をしていた林が「便所いってくんべえ」と立ち上がった。個室には向かわずフロントの方へ向かったので、相沢も油断した。数秒たって、事務所側の個室のドアから怒鳴り声が聞こえた。裏から回って個室に行ったのだ。
 向井、相沢、林田が同時に立ち上がって駆けだした。個室のドアを開けると、般若みたいな顔で林が山本を怒鳴りつけていた。ただ怒鳴っているのではない、山本に自分の胸をぶつけているのだ。
「さあ、殴れよ、殴ってみれよ。俺が憎いんだろう。だったら殴りやがれ。男だろう、貴様。金玉つけてんのか」
 先に殴らせようとしている。一瞬、相沢の心に悪意が走った。「山本、殴れ。殴って、林にぶちのめされろ」山本の顔は驚愕に彩られている。口元が歪み、わなわなと震えている。相沢が、心の中で「山本なぐってやれ、林のために」と叫んだ時だ。
 向井が林を羽交い締めにして押さえた。林田も林の両手を握っている。それを見た途端、山本の怯えは止み、目が徐々に怒りを帯びてきた。押さえられた林に向かって、沸き上がる憎しみを込めて怒鳴りつけた。
「貴様なんて、首だ。首にしてやる。もう二度と就職できなくしてやる。この辺の企業に暴力を振るったって言いふらしてやる。貴様のような…。」
相沢がその怒鳴り声を遮った。
「さあ、これで終わり。私憤による喧嘩はこれでストップ。仕事優先。おい、林田、もう時間だろう、本部長を上にお連れしろ。カラオケの審査委員長がいなけ
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