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愛しのヤクザ
第十章 悪意
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下ろし、立ち上がった。調理長にお礼を言おうと待っていたが、調理長は相沢を無視している。相沢べったりという厨房内の批判を気にしているのか。しかし、先ほどの内村の反応はそれを揶揄しているようにも思えた。
 
 事務所に戻ってみると、ここでもひと騒動持ち上がっていた。そこには、鬼のような顔をして山本本部長が突っ立っている。両脇には向井支配人と石田経理課長、その前には林がうなだれたまま座っていた。
 山本の顔は紅潮しており、林を怒鳴っていたことは明らかだ。向井がいつものように割って入ろうとした矢先だ。山本の唸るような声が響いた。
「貴様、どうやってこの責任を取るつもりなんだ。ええっ、どうするつもりだ。一度や二度じゃない、もう三度目だぞ。そのたんびに、本部で駆けずり回って、大目に見てやれと皆をなだめた。その俺の顔に泥を塗ったことになるんだぞ。えっ、どうする」
 山本は伝票のようなものを手に持って、林を睨み付けている。林が辞めると言い出すのを待っているのだ。
 と、ドアが開き、林田が入ってきて緊迫した雰囲気に気付いた。ごほん、とわざとらしい咳をすると、林の返事を今か今かと待つ山本に話しかけた。
「本部長、上で審査委員長の席を用意しておきました。もう、宴会場に上がってもらえませんか?」
大広間のカラオケ大会の席のことだ。これを山本が目を剥きだして怒鳴った。
「何で、今から上にいなけりゃならないんだ。まだ20分もあるじゃないか」
「いや、早く用意しておいた方がいいと思って」
山本は林田を無視して再び林を睨みすえる。相沢は林田の優しさに涙が滲んだ。自分の保身も顧みず、迫真の演技をする最高権力者にちゃちゃを入れたみたいなものだ。相沢が割って入った。
「本部長、いったいどうしたって言うんです?」
山本はこれを無視した。相沢は、一瞬血が頭に上ったが、再び冷静に声を発した。
「また林が入力を間違ったんですか?しょうがねえな」
ふと、山本が力を抜き答えた。
「まただよ、何回やっても同じミスを繰り返す。向いてねえんだよ、こうゆう仕事に」
「あれっ、その伝票は給与計算のじゃありません?おかしいな、給与計算は石田課長がやっていたはずだけど」
石田が焦って何か言おうとしたが、山本がそれを手で制し答えた。
「違うんだよ、それが。石田課長は教わってないんだとさ。林が譲りたくないもんで、教えねえんだ。ケツの穴が小いさいんだよ、男のくせに」
 この時、林はとうとう堪えきれなくなった。その顔は今にも泣きそうだ。
「俺は、何度も教えたよ。石田課長、正直に言ってくれよ。この間だって、やってるか?って聞いたら、やってるやってる返事したじゃねえか。何で嘘言うんだよ」
石田が甲高い声を上げた。
「私、教わってなんかいないわ。そんな返事なんて、した覚えないもん」
向井
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