第十章 悪意
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い腰をあげてやってきた。内村が鎌田からその破片を取り上げると、ちらりと見て、固唾を飲む若手に笑いかけた。
「おい、この割れ目を見ろよ。まるでガラスみたいに光ってる。そうとうの安物だ。恐らく百円ショップの瀬戸物だろう」
若手も笑いながら答える。
「ここにはこんな安物置いていないよねー、内村先輩。百円ショップの湯飲茶碗なら中継点にたくさん置いてあった、村田さん達のやつが。俺たちのは全員同じ形のステンレス製のマグカップ。店のものと紛れないし、洗えば誰が使ってもいい」
と言うと可笑しそうに笑った。内村がちらりと鎌田副支配人を見て言う。
「俺の言葉が信じられないのなら、ここの食器を揃えた瀬戸物担当の佐々木バイヤーに見てもらったらいい」
内村はこう言うと踵を返し、奥にひっこむとまた新聞を広げた。向井支配人はにやにやしながら鎌田と村田に視線を向けた。
「あのお客は料理をただにするという僕の申し出を断った。だからあのお客がわざと入れた可能性はない。この破片は少なくとも厨房で入った可能性も少ない。いったい何処で入ったのかなー」
と言うと、その破片を持って厨房を後にした。鎌田と村田は内村の一言を聞いてから、うんでもすんでもなく、向井が去ると、何事もなかったかのように仕事に戻ったという。
相沢がことの次第を聞いたのはその翌日だった。あからさまな悪意に慄然としたのだが、向井はむしろ面白がっていた。
「いいかい、課長、現場なんてこんなことしょっちゅうだ。特に女連中のいがみ合いは凄い。見ているこっちが冷や冷やする。妬み、嫉妬、恨み、憎しみ、全てのマイナスの感情が渦巻いている。しまいには、それを利用する汚い奴も出てくる」
「やはり山本本部長の差し金でしょうか?」
「それはどうかな、今回の件はどうも女の浅知恵臭い。本部長の歓心を買おうという鎌田が、その浅知恵に飛びついたってとこだろう。それより、当面の問題は調理長がこの件でどう出るかだ。きっと辞めるって言い出すと思う」
「ええ、僕もそう思います。でも何とか慰留してみます」
「そろそろ調理長の出勤時間だ。内村さんが調理長に昨夜の出来事をことさら大げさに聞かせていることだろう。あの人はここを辞めたがっているから」
「ええ、内村さんは調理長にはこんな現場は相応しくないと思っています」
その時、相沢の机の電話が鳴った。向井がにやっとして出るように促す。相沢が受話器を取り上げ耳に当てる。
「か、課長、ちょっと上ヘ…」
と言う調理長のうわずった声が響く。受話器を置くと向井が真剣な眼差しで言った。
「課長、任せるから、兎に角、慰留してください。お願いします」
相沢は頷いて厨房へ向かった。
厨房では調理長を中心にみなが集まっていた。本来であれば仕込みで忙しく立ち働いてる時間だ。調理長は感情を押し殺して
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