第九章 嵐の前
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言っておかなければならないんだ。この世界じゃよくあるんだが、店のものが出勤してきたら、厨房がもぬけの殻なんってことはよくある話だ。それだけは絶対にしない。後釜を据えるまで辞めない。だからその時は許して欲しいんだ。とにかく、石田課長さんの露骨な態度には辟易している」
「はー…」
「どうも山本さんのやり方は俺の流儀とは合わない。最初に出会った時からそれは感じていた」
ふと、悪代官を懲らしめる5人の侍を想像した。山本統括事業本部長は時代劇に出てくる悪代官にぴったりだし、山本事業本部長の後ろ盾となっている安藤常務はさしずめ悪代官を影で操る悪徳商人といった案配だ。まてよ、侍なんかじゃなくて、農民一揆をを起こした村の主導者だったりして…。
調理長の真剣な眼差しに気づき、妄想を振り払った。そして懇願した。
「今は耐えてください、お願いします。僕は絶対にあいつらには負けません」
「おいおい、勝ち負けをいっているんじゃない。世の中には、負けるが勝ちってこともあるんだ」
「何とかお願いします」
「分かったよ、分かったから、もうその頭を上げろよ。どうも弱い、向井さんと課長には…。とにかくだ…、向井さんと課長の二人のために、やれるだけやる。」
「有り難うございます」
相沢は深々と頭を下げた。
事務所に戻ると相沢はパソコンに向かった。ワードを立ち上げ、最初に「岡安専務殿」と書いた。統括事業本部は安藤常務の直轄であり、岡安専務は直接タッチしていない。しかし、今の現状を打開するには常務の上に訴えるしかないと思ったのだ。
専務は大学の先輩であり、何かと目を掛けてくれている。企画部時代、販促キャンペーンで全国行脚の出張のお供をしたこともある。しかし、専務に信じてもらえるだろうか?厨房が不正をしているという山本の宣伝は既に経営陣にまで浸透しているのではないか?
相沢が本部に赴くのは会議に出席するためで、月に一度だけ。これに対し、山本は月に一度直轄事業の各現場を回る以外はずっと本部だ。山本のやり方は陰湿だが確実だ。まずは潰したい相手に負のイメージのレッテルを貼る。それをあちこちで触れて回る。
相沢の「上司を蔑ろにし、独断専行しがち」というレッテルはすでに本部でも定着してしまっている。宴会場と厨房の間に洗い場と中継基地を山本の了解なしに作ったことは皆知っていた。それは山本が稟議に判を押さないので既成事実を作ったまでだし、まして、それを作らなければ現場は大混乱で、今日の成功はありえなかったのだ。
相沢は大きなため息をつき、書きかけの文章をゴミ箱に放りこんだ。専務に秘密のレポートを送ったことが知られれば、安藤常務と山本事業本部長の機嫌を損なうことにもなる。まして調理長は上手く立ち回れと言った。時期を待つしかないのかもしれない。
そこへ林が出勤
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