第九章 嵐の前
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る勘、あの第六勘の勘だ。職人のこの勘こそが日本文化の神髄だ。なにがバイヤーだ。横文字並べりゃ偉いと思っていやがる。課長のすきなマニュアルなんて、忍耐を知らず、微妙さを体得できない毛唐が平均点を取れればいいという思いで作ったもんだ。だけど、俺たちの目指すのは平均点より遙かに上なんだ」
相沢は石塚の毛唐と言う言葉に苦笑いを漏らしたが、彼の言う文化論にも多少頷けるような気がした。相沢は答えた。
「調理長、もう少し耐えて下さい。山本本部長はあの若さで取締役候補です。一課長の僕が出来ることなんて限られていますが、僕なりに努力をしています。もっと上の方にも訴えていこうと思っています」
「いやいや、課長、無理はするな。別に課長にどうにかして欲しいなんて、これっぽっちも考えていない。ちょっと愚痴を言いたかっただけだ。とにかく、課長は無理をするな。サラリーマンなんだから上手く立ち回れ。」
「はー、あの山本さんに対して上手く立ち回っていたら、人間性が歪むような気がしますし、もう手遅れです」
調理長は同感だというように苦笑いを浮かべた。
「いや遅いということはない。これからのこともある。課長はサラリーマンなんだから、長く勤めることを考えろ。俺たちはどこにでも行ける。1年契約にしてもらったのもそういう含みがあってのことだ」
「そんな寂しいこと言わないで下さい。来年も契約更新、何とかお願いします」
「課長、それは無理だ、歳だしな。こんな長丁場の勤めも初めてだし、体力の限界を感じ始めている。ところで、二番手の内村が不思議がってる。浅草の家から通えず、アパートを借りてまで、何でここに留まっているのか不思議がっている。昔の俺なら、不正を疑われていると感じただけで、さっさと辞めている」
それは相沢も同じことを感じていた。どうしたわけかここに引き寄せられる。居心地が良いのだ。何故なのか何度も考えた。そして相沢はある結論に達したのだ。人間関係であると。ここに集まった核となる人間達に惹きつけられているのだと。
調理長、支配人、林コンビそして相沢。5人は、かつて何処かで出会っているのではないか。そう前世で。そこで共通の目標のために働いた同志だったのではないか。相沢の本来の仕事は計数管理だ。何も現場に来てそれをやらなくとも、本社ビルの7階でパソコンに向かっていても誰も文句は言わない。それが毎日のこのこやって来る。皆に会いたくて。
にこにこして調理長が言う。
「それは二人に頼まれたからだ。課長と向井支配人が料理で勝負したいと俺を頼ってきた。その期待に何としても応えたいと思ったからだ。1年で何とか軌道に乗せるつもりだ。だけど、どうにも耐えられないという時が来るかも知れない。そんな時、俺は二人には絶対に迷惑をかけない形で辞める。」
「調理長、」
「まあ待て、これだけは
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