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愛しのヤクザ
第九章 嵐の前
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が、料理がまずくて食えないという人もいる。相沢君はどう思う?」
「私も料理の評判は気になって当初からアンケート用紙に目を通していますが、そういう反応はごく少数で、殆どのお客は大満足のところに丸をつけてます。特に、今度出したカツ重は好評で、売り上げ第一ですし絶賛されています」
「おいおい、別に、そんな単品をもって良し悪しなんて言ってるわけじゃない。まずくて食えないといっているお客がいることが問題なんだ。これを放っていれば、こうした施設では後々禍根を残すことになるのは目に見えている」
相沢は山本を睨みすえ言い放った。
「勿論、私もその少数を無視するわけではありません。何度も言わせてもらいますが、アンケートの統計によりますと大多数の人が料理には満足と答えています。要はその少数意見の原因を究明し、そして改善することだと思うのです、違いますか?」

 相沢は自分自身をつくづく可愛げない部下だと思う。しかし、そう仕向けたのは山本自身だと思っている。山本も反論を食らって頬が紅潮してきた。それでも年の功を見せつける。
「分かった、分かった。その問題はとりあえず君に任す。まあ、そのことはいい。それより、俺はこうした客商売のプロをもって自認している。その点、君より経験を積んでいるつもりだ。だから、ああゆう職人の狡さも汚さもよく知っている。そして今回の厨房は最悪だ」
こう言うと、タバコを取り出して火を点けた。いよいよ反撃に出ようというわけだ。
「奴らの関心事は、仕入れでどれだけ浮かすかだ。バックマージンなんて当たり前の世界だ。奴らは確実にそれをやってる。伝票をチェックするだけじゃ足りん。仕入れ商品のチェックが管理者の重要な仕事になる。君はそれをやったことがあるのか?」
自信をもって答えた。
「いいえ、ありません」
「だったら明日からでもそれをやりなさい。あいつらが何をやっているか、その目で確かめなさい。それがあんたの仕事だというのも忘れて、石田課長におんぶにだっこじゃしょうがないだろう」
じっと相沢を睨みすえる。
「ふっ、まあ、そんなレベルだから風呂屋にまわされたんだろうがな」
挑発するようなその言葉に思わず頭に血が上ったがじっと耐えた。分かりましたと答え、惨めな気持ちで個室を出た。まだ辞めるわけにはいかないのだ。それならじっと耐えるしかない。しかし、恐れていた事実にいよいよ直面することになった。

 その事実とは蕎麦がまずいという事実だった。「どうだ?」とにこにこしながら問う調理長に思わず「旨いです」と答えたが、正直言うと違和感があった。さすがにアンケートにまずくて食えないとは書いていないが、その種の意見があったことは事実なのだ。しかし、あの調理長の笑顔を思い出すと何も言えなくなる。
 相沢は調理場へ裏階段から上がっていった。そこは宴会が二件
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