第九章 嵐の前
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れと言った仕事があるわけではないのだが、何かと忙しい。
林田は宴会誘致の営業だけでなく、宴会場の催し物に力を入れ始め、売れない歌手を呼んだり、カラオケ大会を企画し司会業にまで手をひろげている。深夜喫茶の担当は応募が全くなく、心苦しいとは思いながらも林に甘える日々が続いている。
林は深夜勤務明けの午前中にコンピューターの処理を終えて帰るが、その日の零時には出勤という激務が続いていた。林を休ませるために相沢、林田、昼間担当のハルさんが深夜喫茶担当を申し出て、何とかやりくりしているが、そろそろ限界が近づきつつあった。
そんなタイトな勤務ローテーションなど何処吹く風、9時5時勤務、日曜祝日休みの石田経理課長を、向井支配人が、林からコンピューターの仕事を引き継げ、と怒鳴りつけたのはつい先々週のことだ。。
その石田経理課長と厨房との関係が険悪になっている。石田は伝票を、厨房は仕入れを取り仕切る。両者の関係は信頼関係がまず前提になるのだが、その信頼関係が皆無なのだ。
その対立の裏でうごめく山本統括本部長の影。うんざりすることばかりだ。
鎌田副支配人は山本統括事業本部長に取り入り、向井支配人を出し抜こうと躍起になっている。山本の個室の鍵が替えられたのは鎌田副支配人の密告に違いなく、寝る場を失った相沢は二階の休憩室で仮眠する羽目に陥っている。
こうしてパートのおばさん達を巻き込む大騒動の下準備がゆっくりと入念に用意されていた。オープン当初の入れ墨、ヤクザ対策に忙殺され、それのみに神経を集中している間に、それに一切関わらなかった勢力が背後でうごめいていたのだ。
ぼんやり頬杖をつく相沢の肩を誰かが突っつく。居眠りしていたらしく、辺りを見回すと、隣の石田が個室の方を指さしている。その方向を見ると、個室から鎌田副支配人が顔を出し、相沢を見ていた。鎌田は振り返り最敬礼して個室を出ると、相沢に声を掛けた。
「事業本部長がお呼びです」
頷いて立ち上がり、すれ違いざま心の中で「クソッタレ」と呟く。鎌田副支配人はヤクザとの一件以来、相沢に敵意を抱いている。何故なら弱みを握られたと思っているからだ。相沢は鎌田の手が震えていたことなど誰にも話していない。
誰だってあんな場面で、しかもあんな風にコーヒーカップを持てば手先は震えるに決まっている。しかし、鎌谷は武道家としてのプライドがあるのだ。身勝手なプライドだ。自分は許せても、それを目撃した人間は許せないのだ。
個室に入ってゆくと山本統括事業本部長はソファにゆったりと腰を落として待っていた。顎で座れと指示する。山本は相沢が座るとおもむろに口を開いた。
「今、本部の方でも問題になっているんだが、どうも厨房の評判が思わしくないんだ。まあ、一部の意見を大げさにとらえているという批判もあるのだ
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