第八章 暴走族
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の。林田君はそれを期待してたみたいだけど……」
相沢は林田に嫉妬を覚えた。結ばれなくとも大切な縁だってある、とは林田のことを言っているのかもしれないと思ったのだ。少なくとも、それが相沢だとは一言も言ってはいない。相沢の思いを知ってか知らずか、久美子が言う。
「そろそろ、声をかけてあげようか、あんなに石を投げてたら肩がいかれちゃう。彼、甲子園には行けなかったけど、地区大会ではいいところまで行ったのよ、ピッチャーだったの」
こう言って、久美子が林田に声を張り上げた。相沢は、高校時代、サッカー部のキャプテンだったが地区予選で勝ち残ったためしもない。敗北感に打ちのめされた。にこにこと近寄ってくる林田が二倍にも三倍にも大きく見える。
「課長、そんな所にいたんですか、あれっ、久美子も一緒か、ちっとも気付かなかった」
そんなみえみえの言葉を吐くことに動じる林田ではないはずなのに、何故か恥じらいを見せた。そんな心の襞を覗かれまいと、林田はことさら大きな声で吠えた。
「久美子、車のキーくらい置いてけよ。残暑とはいえ、車の中は蒸し風呂だ。俺だって気きかせて、寝てるふりを決め込んでもよかったけど、あれじゃあ寝てられねえもの。クーラーかけてれば時間は稼げたはずだ。しかたなく、うぶな少年みたいに、石を投げるポーズをとるしかねえじゃねえか、まいったよ」
相沢と久美子は、傷付いた心さえジョークにしてしまう林田の強じんさに、思わずほほ笑みを交わした。相沢は、林田という男が、ほとほと一筋縄ではいかない人間であることを思い知らされたのである。
その日の帰り、夕食で飲んだビールが疲れた体を程よく酔わせ、二人の男はすっかり寝込んでしまった。従って、久美子が二台の暴走族の車に挟まれ、海岸に停車せざるを得なかった経緯など知るはずもない。
揺り起こされた二人は、久美子の必死の言葉を理解するのに多少時間を要した。とろとろ走る二台の車を追い越すと、それまでとはうって変わって爆音を響かせ追ってきたと言う。意図的にゆっくり走り、追い越させて難癖をつけるタカリの部類だろう。
林田が「俺に任せろ」と言って久美子の胸のサングラスを取ると車を出た。相沢も後に続く。ジャガーのライトは海に向けられている。月は雲間に隠れ、闇に慣れていない目には男達の姿もぼんやりとしか見えない。相沢が囁く。
「林田君、その濃いサングラスかけて、こんな真っ暗でも見えるの?」
「何にも見えねえ。真っ暗闇です。で、敵は何人です?」
「うーん四人みたいだ。おー、だんだんよく見えるようになった。みんな若い。見るからに暴走族。強そうなのは一人。後は足が細すぎる。けっ飛ばせば折れちゃいそうだ」
「よしきた、これからサングラスをとります」
「……?」
林田はゆっくりとサングラスをはずし、胸のポケット
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