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愛しのヤクザ
第八章 暴走族
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やはりヤクザ?なんて馬鹿な質問だった。焦ってうろたえる相沢を見て、久美子が目をくりくりさせて答えた。
「そう、やはりヤクザ。ずっとうちにいる人で、お兄ちゃんって呼んでた。物静かで、読書家で、立派なテキヤ」
 へーと言ったきり後が続かない。何か喋ろうとするのだが話題がでてこない。すると久美子が言った。
「相沢さん、バイク乗ったことある?」
「バイクかー、どうも剥き出しで走っているみたいで……」
「私も最初はそう思ってた。初めのうちは恐怖と闘いながら無理してスピードを上げていた。一瞬のミスは即死ですもの。でも、それは最初のうちだけ。しまいには恐怖が徐々に恍惚へと変わってゆくわ。」
「うーん、それって人にもよるんじゃないかな」
「ふふ、で、どうしてかなっていつも考えていた。その訳がようやく分かったの」
「どうしてなんだ?」
「しがらみを振り切るからよ。運命の赤い糸っていうけど、それ一本ではないし、まして赤ばかりでもないの。生まれる前から人々は沢山の糸、つまり縁で繋がっているんだと思う」
「つまり一瞬、スピードがそうした縁というしがらみを断ち切ってしまうというわけ?」
「そう、そこにいるのは孤高で純粋な魂だけの存在。いいえ、自分という個もけし飛んでしまう」
「でも、しがらみのない世界なんてありえない。人間はしがらみによって成り立っているみたいなところもある。僕の父と母のしがらみがなければ僕は存在していない」
「本当にそう思う。やっぱり結婚は人間関係の中で強い縁だと思う。どんなに愛していても縁がなければ結ばれない。でも、結ばれなくとも大切な縁だってあるかもしれない」
と言った途端、久美子は耳まで赤く染めた。久美子が泣いた映画は悲恋物語だった。自分の運命と重ね合わせているのだろう。愛おしさが胸元までせりあがる。とはいえ、相沢が映画の主人公になるわけにはいかない。ヤクザと婚約している女を奪う?馬鹿な。

 ふと、視界の右端に林田が入り込んだ。相沢が言う。
「あれっ、林田があんなところで石投げてら。こっちに来ればいいのに。呼んであげよう」
「何いじけているのかしら、馬鹿みたい。もうちょっと放っておきましょう。そうそう、林田君と私って、男女関係という意味からいったら本当に縁がなかったと思う。林田君って、下品だってことを除けば、それなりにいい男だし、頭もいいし、ずっと一緒に遊んできたけど、そういう関係にはならなかった」
「うん、ありえる」
「林田君の部屋に遊びに行ったこともあった。もう少しでキスしそうになった。でも、私が避けたの。何故だか自分でも分からなかった。ある程度期待していったのに…」
「期待していたけど、覚悟が出来ていなかった?」
「ええ、その通り。林田君、吉野の家を継ぐ気はないって……、でも、一人娘が家を出るなんてできないも
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