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愛しのヤクザ
第七章 テキヤNo2
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をその舌先三寸で罪に落そうってことだ」
「言いがかりはよせ、この野郎、そんなつもりで言ったわけじゃねえ」
このやりとりがしばらく続き、その後、急に声を落してぼそぼそという声、しばらくしてまたしても親分さんのどなり声、これが何度も繰り返えされた。そして声がやんだ。ドアに耳をあててみると、話してはいるらしいのだ。だが声は殆ど聞こえない。
 マルボウの中村が「それはない、それはない」と応じている。ぼそぼそと言う親分の声。「あるわけないだろう」と答える中村。そして沈黙、せせら笑う親分。

 突然、ドアが開き、中村が出てきて、困ったような顔をして相沢に聞いた。
「あんた、酒やビール券持って警察に行ったなんて、本当に言ったの?」
「いや、言ってません。あいつが勝手にそう言っているだけです」
「困るんだよな、そういうこと言ってもらうと」
「だから、言ってませんて」
「分かった、分かった、まったく嫌な野郎だ。ほんとか嘘かうちの署長のことも色々知っててよ、明日、挨拶に寄るなんて言いやがって、嘘に決まってるだろうが。ったく」
中村は一瞬肩を落としてドアの向こうに消えた。

 ふと、喫茶店を見ると缶ビール片手に子分どもが思い思い、床に寝ころんだり、椅子にもたれたり、皆、だれた雰囲気で親分さんを待っている。中には絨毯の上で、ジャンパーを枕代わり本格的に寝ている奴もいる。
 驚いたことに林田と例の二番手が円柱に寄りかかり談笑している。随分と親しげな様子である。林田が冗談でも言ったのか、二番手がげらげらと笑った。仲間に入れてもらおうと相沢が近づいてゆくと、林田が声をかけてきた。
「課長、駄目みたいよ。あの人、国家権力に噛みつくのが趣味なんだって。このあいだも名古屋の警察で朝までやったそうです」
二番手も苦笑いしながら口を添える。
「まあ、覚悟すんだな。あれ、朝までやる気だ。まいったなー、疲れているのに」

 しばらくして、中村が出てきたが、その顔は泣く一歩手前だ。ドアの前で地団太踏んでいる。急いで近づくと、すがるような視線を向けて言う。
「どうだろ、泊めてやるわけにはいかんか?」
「だめですよ、そんなこと出来ませんて、頼みますよ」
嫌がる中村をもう一度頑張るよう説得し、ドアの向こうへ追いやった。どう考えても、親分さんの方が一枚も二枚も上手だ。敵うわけもない。だとすれば朝まで付き合うことになる。マルボウの中村と交代することも覚悟した。

 どれほど時間が経ったのだろう。円柱の横で寝ころんでいる自分に気付いた。妙な音がするので、上を見上げると林田が柱に立ったまま寄りかかり鼾をかいている。一瞬、今という時が理解できなかったが、すぐに現実を思い出した。
 見回すと、誰もが諦めてそこここで身体を休めている。鼾もあちこちから響いてきた。深夜喫茶はヤ
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