第七章 テキヤNo2
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もんじゃない。でも、砂糖を入れようとすれば、スプーンの長い柄に震えが伝わりテーブルいっぱいに砂糖を撒き散らすに決まっている。鎌田を笑えるわけもない。親分さんがせせら笑う。ばれたかと思ったが、しらんぷりを決め込んで、もう一度、コヒーに手を伸ばす。親分がじっと見つめながら言う。
「俺はなあ、60年安保の時代の成れの果てなんだ。何度も豚箱に放り込まれた」
ずるずるとコーヒーをすすり、ゆっくりと喉に流し込む。そして腕を伸ばし慎重にカップをテーブルに置く。今度もうまくいったとほくそ笑む。ふと、聞き流していた親分の言葉が蘇り、「何だって、60年安保だって?お前、ヤクザだろう?」と心の中でつぶやき、まじまじとその顔を凝視した。
「そんな俺を雇う企業なんてありゃあしねえ。しかたなくこの商売に入った。刺青だって、いい場所取るためには有利だって勧めてくれる人がいて、気はすすまなかったけど、生きてゆくためにはしかたなかったんだ」
相沢が目をまん丸にして聞いた。
「親分さん、60年安保やってたってことは、大学卒ですか?」
「馬鹿野郎、大学卒業してたらもっといい商売やってる。中卒だ、悪いか?えっ、中卒だと言って、また俺を馬鹿にする気か?」
「いえいえ、そんな滅相もない……」
「お袋は背中を見て泣いたっけ。こんな男に育てたつもりはないって。だけどよー、これを入れなかったら食べていけなかった。そのお袋も、今じゃ贅沢させてもらって俺に感謝している。この刺青にはそういう過去があるんだ。お前みたいな若造には分からない歴史ってもんがあるんだ」
「勿論、人それぞれいろいろな事情があるのは分かっていますよ。でも、そういう事情をいちいち聞いていたら、こういう施設は刺青だらけになってしまうんです。きっぱりと一線を画してシャットアウトしないと食い物にされてしまうんです」
「何にー、食い物だ。俺が食い物にしに来たっていうのか?」
「そういう揚げ足取りは止めにしましょう。親分さんは、話せば分かる方だと思ったから、こうしてお話しているんですから」
話せば分かる人というおだてに乗ったのか、急にしんみりとした表情になった。
「そうだよな、俺たちみたいな善良なテキヤばかりじゃないからな。そうそう、この辺だと鯨井っていう博徒がいた。確かにあいつに食い物にされたら大変だ」
と言って、微笑みかけた。やっと真心が通じたなどとは思わなかったが、子供のような笑顔に思わず心が和んだ。親分さんが続ける。
「警察とは懇意にしておいた方がいいぞ。何かの時に役に立つ。俺だってしょっちゅう地元の警察には顔を出すんだ。それが、また、好きな奴が多くてよ、地方の地酒なんて持って行くと、昼間っから酒盛りだ」
「へー、そうなんですか」
「ああ、あいつらはけっこうストレスがたまっている。だから呑み助が多いのさ。たま
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