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愛しのヤクザ
第六章 テキヤNo1
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答えを用意しているだろう。
 その後、喫茶で久美子と林田がビールを飲みながら談笑しているのを見たが、何となく近づけず、遠くから眺めた。全ては明日だ。何かが始まろうとしているのか、或いは何も起こりはしないのか?全てが明日決まる。そう思ってその場を後にした。

 事務所に戻り、書きかけのレポートを仕上げた。既に0時をまわり、皆の言った通り何事もなく時間は過ぎていった。しばらくして警官の山ちゃんと石橋が立ち寄り、二人とコーヒーを飲みながら談笑していた。
 相沢はすっかり安心しきっていた。まして頼りがいのある警官二人がいることも、明日デートすることも相沢をうきうきとさせていた。喫茶店を抜け出して林田もやってきた。久美子はもう寝たのだろう。
 警官二人を少しでも長居させようと、林田が冗談を連発する。笑いが部屋中に響く。にこにこと相沢も遅ればせながら笑い顔を作り、上の空で笑い声をあげた。平和な夜、明日はデート。なにもかも順調だった。

 と、突然ドアが開いた。見ると血相を変えた上田が口をパクパクさせている。部屋の全員が上田を注視する。ようやく上田の口から声が響いた。
「課長、大変です。大勢で押しかけて来ました。モンモンしょってます」
 相沢は血の気が失せるという感覚を初めて味わった。立ち上がりかけたが膝に力が入らない。それでも気力を振り絞り立ち上がった。そしてぽつりと聞いた。
「大勢で押しかけたって、何人くらいだ?全員がモンモンしょってるって?」
上田が、うろたえて答える。
「いえ、そうじゃなくて、大勢は大勢なんですが、モンモンしょってるのは一人だけです」
 ふっと肩の荷がおりた。大勢で、しかも全員刺青入れていたら、まさに嫌がらせか殴り込みだ。そうでないと分かっただけでもめっけもんである。にわかに足に力が湧いてくる。
 立ち上がろうとする山ちゃんと石橋を手で制し、上田と連れ立って事務所を出た。少し後に林田がついて来る。風呂場と事務所の連絡係である。

 ロッカー室に入ってゆくと、なるほどあちこちに目つきの鋭い男達がたむろし、入ってきた相沢等を睨みすえる。どの男達も刺青はしていない。抵抗しつつも上田に背中を押されるものだから、男達の間を通り抜け問題の場所に到着した。
 ザ・ヤクザといった顔つきの男が二人、二列のロッカーの入り口で相沢を待ち受けていた。一人が「野郎…」と口にした。と同時に、奥の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、今の失礼な男を呼んで来い。我慢にもほどがある。奴の態度はゆるせん。おい誰か、さっきの男を連れて来い」
 上田は「ひー」と言ったきり、相沢の背広をひっつかんだまま背中に顔を押し付けている。あの失礼な男とは上田のことなのだ。二人の男の背後を覗くと、太った大男が背中にタオルを掛け、男達にマッサージをさせている
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