第六章 テキヤNo1
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した。そしてようやく思い当たった。林田が急遽泊まると言い出したのは久美子が泊まるからだ。郁子を狙っていると皆の前で言ってはいても、妻帯者の林田に勝ち目はない。単に場を盛り上げているだけなのかもしれない。
ゲームセンターに入って行くと、その林田が宇宙戦争ゲームのボックスの中で機械を操縦している。斜めに傾いた入り口を開け、相沢も中に入って画面に見入った。レーザー砲を発射しながら、レバーを操縦して相手の撃ちだす弾を避けるのだが、ついに被弾してボックスはがたがたと振動しながら墜落した。
「やられちゃいましたね、課長。いいところまでいったのに」
相沢が笑っていると、林田はいつになく無表情な顔で続けた。
「ところで、課長は明日何か予定あります?今晩の勤めが終わったら、暇ですか?」
いよいよ飲みに誘ってくれる気になったかと思い、相沢はすぐさま頷いた。
「ああ、暇、暇、暇を持て余している。全然予定ない」
それを聞いて、林田はちょっとがっかりした様子で言った。
「実は、今日、久美子がここに泊まるんですよ。久美子からお誘いがあったもんだから、嬉しくって急遽泊まり番して、明日二人して遊びに行こうと思っていたわけです、女房には内緒で…」
相沢はちょっと話が違うと思い怪訝な顔で聞いた。
「で?」
「俺は内心うきうきしてたわけですけど、久美子が課長も誘えっていうもんだから、なんか、こう、冷水を浴びせられたみたいで…」
相沢にしてみれば、林田の誘い方のほうがむしろ自分に冷水を浴びせているようで納得いかなかったし、思わずむっとしたが、林田はそれにも気付かず続けた。
「とはいえ…惚れた弱みであいつには逆らえないし、じゃあ、そういうことで、明日、ご一緒しましょう」
まさにとぼとぼといった表現がぴったりな歩きでその場を離れたが、ふと立ち止まり呟く。
「でも、俺、止めようかな、だってあのジャガーの助手席は絶対課長を座らせるだろうし、なんか、付け足しみてえで、俺、惨め。かといって、久しぶりにデートもしたいし…」
林田は揺れる心を持て余し、ハムレットよろしく悩んでいる。相沢は林田の落ち込みようを目のあたりにして、気の毒な気がして断るつもりになっていたが、林田の結論のほうが少し早かった。
「まあ、課長は独身だし、優先権を尊重すっか。ジャガーの中で恋の鞘当でもして遊びましょう、じゃあ、明日」
今度はきっぱりと歩き出した。林田は今日、深夜喫茶のマスターを引き受けてくれたのだ。相沢は林田の後姿に語りかけた。
「動機はどもかく、深夜喫茶を引き受けてくれて感謝してるよ、でも、恋路は別だ。僕も今日、久美子を可愛いと思ったんだ」
相沢の脳裏に久美子のむっちりとした太股が蘇る。果たして恋心と欲情はいっしょなのか否か。いつか林田に聞いてみようと思った。林田なら明確な
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