第六章 テキヤNo1
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だ。大層なもの言いだが、ようするに気取っ女など、糞っ食らえということらしい。相沢もその意見には賛成である。
事務所で仕事を片付け、ふらふらと風呂場に入って行くと、上田が洗面台を磨いている。一昨日のショックからようやく立ち直ったようで、口笛なぞ吹いている。相沢が、よっと声を掛けると、元気良く挨拶した。
「課長、おはようございます。今日は日曜の晩だし、お客も少ないですねー。そういえば林田さんも言っていましたげど、今日は何事も起こらないと思いますよ。だって、誰だって仕事が終わったら一目散で家に帰りますもんね。こんな所に泊まるわけないですから」
少し違っているが、林田の言葉をそのまま繰り返して同意を求める。うんうんと頷いてそのまま階段を上がった。
今日は風呂場チーフの岩井が早番で帰ったので、上田も心細いのだ。まして、岩井は入ったばかりの上田に、研修だとか何とか言って、絆創膏の客の応対をさせた。上田は腰を抜かさんばかりの現実に遭遇したのだ。見ると、上田の後姿がどこか不安げだ。
大広間の中を覗くと副支配人の鎌田がウエイターよろしく注文品をお盆にのせて運んでいる。客は少なく、隅でお喋りに興じるオバちゃんたちを働かせるのが自分の仕事だというのに、何か勘違いしてんじゃねえか、と心の中で毒づいた。
そのことを何度も注意しているが、そのたびに現場を知らない相沢の弱点を突き、ましてオバちゃん連中は率先垂範を示さなければ付いてこないなどと反論する。ちょっと違うんじゃねんか実態は、と首を傾げた。
それから映画館に入った。映画は寝転びベッドに横になって鑑賞する。勿論、夜ともなるとここも男子専用の仮眠所に様変わりするのだが、林田に言わせると、一段高い女性専用スペースを覗くと、しばしば女性のあられもない下半身が映画の光に照らされ浮かびあがると言う。
今日こそと思い、相沢は横になってチャンスを窺った。林田はうつ伏せに寝るフリをして覗くのだそうだ。相沢は何度も寝返りをうつが、プライドが邪魔をしてうつ伏せの位置で首を上げることが出来ない。しかたなく、横眠りで目が白目になるほど視線を上げた。
歪んだ視覚がようやく一人の女を捉えた。
なんのことはない。女は白いタオルケットで足首まですっぽりとくるまり、太股なぞ見えやしない。ふと、女がしゃくり上げているのに気付いた。目一杯首を持ち上げてよく見ると、久美子である。
古い恋愛映画だが、それに感動しているのだ。ここぞと感動を煽り、涙を誘うテーマ曲。久美子がタオルケットを引っ張って、顔にあてがい涙を拭う。その拍子に、形の良いふくらはぎとそれに続く太股が顕になった。極彩色の光がその白い肌を染める。久美子がまたしてもしゃくり上げる。相沢はあまりの可愛さに思わず見惚れた。
久美子に気付かれぬよう映画館を抜け出
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