第五章 覚醒剤
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が慌てて割って入る。
「そうしろ、林田、交際費でいいから、奢ってさし上げろ。」
林田が人差し指を口の前で横に振り、ちっちっちと音をたてる。
「課長、こんな時、野暮なこと言わないでくださいよ。男と男が互いの傷を舐めあうのに、交際費はないでしょう。」
相沢は真っ赤になってうろたえたが、気を取り直し、笑いながら二人に話しかけた。
「はっはっは、まさにその通り。それより、山科さん、それと……?」
もう一人の警官が答える。
「石橋です。」
「石橋さんもどうそ、コーヒーを飲んでいって下さい。いつも、お世話になりっぱなしですし。」
感情の振幅の激しい人は、陰と陽が背中合わせだ。一瞬前の悔し涙さえ笑いの種にしてしまう。事務室では相沢や岩井の幾分興奮気味の笑いが響き渡る。殴られることなく終わったことに安堵する気持ちが心を高ぶらせているのだ。
その横で、真面目くさった顔でコーヒーをすする石橋は、イヤホンから流れる情報に神経を集中させている。相沢が気になって石橋に聞いた。
「そうやっていつも本部からの指示や情報を聞いているんですか?」
「ええ、心の休まる暇もありません。24時間続くのですから……」
「えっ24時間勤務なんですか?」
「ええ、それで次の日は休み。昼過ぎまで寝て、ごそごそ起き出してぼーっとしていると一日が終わっています。あれって思うと、またイヤホンに耳を傾けている自分がいます。」
山ちゃんも頷く。相沢はあの日のことを聞いてみたくなった。
「そういえば、山科さんは鯨井組がここで騒いだ時もいましたよね?」
「ええ、こいつとはコンビですから二人で来てました。」
「ああ、そういえば石橋さんも覚えてます。特に山科さんはあの長髪のニヒルな感じのヤクザをねじ伏せていましたから。」
山科が苦笑いして答えた。
「あの時はつい頭にきてしまって。帰ってから上司に散々絞られました。」
林田が合いの手を入れる。
「山ちゃんは、言葉より先に手が出ちゃう方だから、警察よりヤクザの方が向いてるんじゃない?」
「馬鹿言わんで下さい。それに、あいつの場合は特別なんです。3年前、駅前交番勤務の時、奴は駅前の工事現場で働いてて、それで知り合ったんです。奴の出身が親父と同じ和歌山なんで何となく気があってよく飲んだんですよ。名前は堤隆二」
「和歌山ですって?」
相沢と林田が同時に言った。
「それがなにか?」
「いえいえ、別に。」
と、これも二人同時に声を合わせる。山科が続ける。
「堤は、頭も切れるし、度胸もいいし、いい男だと思ったんですが、何時の間にか刺青入れて、鯨井のいい顔になっていました。まったくがっくりです。」
相沢と林田が視線を合わせ頷きあう。鵜飼則子が失踪したのは鯨井組の騒動の直後だ。則子は堤と和歌山で知り合いだった。そしてあの日、偶
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