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愛しのヤクザ
第五章 覚醒剤
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の騒動の時、あのニヒル野郎をねじ伏せた警官である。男が惚けて煙草なぞ取り出すものだから、山ちゃんは胸倉をつかみ胸のポケットまさぐる。
「おいおい、暴力はいかんよ、暴力は。」
山ちゃんが応じる。
「何が暴力はいかんだ。暴力を生業にしてるくせしやがって。」
山ちゃんがようやく二センチ四方の包みを探り出した。そばに控えるもう一人の警官に包みを渡す。もう一人の警官は用意した銀色のケースを地面に置きながら、その包みを受け取る。ケースを開けようとした手が止まった。そしてじっと包みを見詰める。
「あのー、先輩……」
男がくっくっくと笑いを堪えている。山ちゃんが怪訝な顔で振り返る。
「先輩、袋に中央ドラッグストアって……」
男は辛抱堪らず大きな声をあげて笑い出した。そして尻のポケットからくちゃくちゃになった白いクスリ袋を取り出して山ちゃんの目の前にかざした。そして叫んだ。
「やいやい、ポリコー、ヤクザは風邪ひいても、風邪薬飲んじゃいけねえなんて言うんじゃねえだろうな。え、どうなんだ。飲み方だって色々あらあ。俺は鼻から吸い込むのが子供の頃からの癖なんだ。なんか文句あっか、はっー?はっー?」
山ちゃんの顔が怒りで真っ赤に染まる。男は尚も嵩にかかっていたぶる。
「なんだー、その顔は。えー、善良な市民に対して乱暴な態度とりやがって。名札を見せろ、この野郎。山科菊雄だな。な、な、なんだー、菊雄だ。鬼瓦みてえな顔して菊雄?こいつは、笑わせるぜ、がっはっはっはっは。可笑しくて腸ねん転起しそーだぜ。がっはっはっは。」
ここで山ちゃんが切れた。むんずと男の首を右手で鷲づかみにしたのだ。林田ともう一人の警官が必死で山ちゃんを引き離す。男が漸く逃れ、げーげー喉をならして逃げるように車に乗り込んだ。息を整え、エンジンを駆けると、窓を開けて言い放った。
「テメエの顔と名前は覚えたからな。このお返しはたっぷりとさせてもらう、覚えておけよ。いいか、良く聞け、背中に注意しろ、えー、菊ちゃんよ。」
二人に押さえられながら、山ちゃんが吼える。
「ああ、覚えておく。腕に自信がないなら、チャカでも何でも持って来い。受けてたってやらあ。」
男はにやりと笑ってアクセルをいっぱいに踏み込んだ。

 山ちゃんがしゃがみ込んだ。そして涙を拭う。悔し涙だ。林が声を掛ける。
「ご免よ、山ちゃん。てっきりヤクだと思ってよ。まさか風邪薬だなんて。」
「林さん、そんなこといいんです。それよっか、くやしいな、あいつら。あいつら、いつだって俺たちを馬鹿にしやがる。」
林田が笑みをこぼし答える。
「山ちゃん、明日、また例の飲み屋で一杯やりますか。このあいだは奢ってもらったから、
今度はオレッチに奢らせて下さいよ。」
山ちゃんがゆっくりと顔を上げる。その顔に笑みが浮かぶ。誘いに乗ったのだ。相沢
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