第五章 覚醒剤
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んだ。そして恍惚とした表情を浮かべている。
相沢と岩井は呆然と男の様子を見ていたが、顔を見合わせ、互いの身の不幸を哀れんだ。ほんまもんだ。ほんまもんのヤクザだ。相沢の膝ががくがくと波打つ。岩井は徐々に後退りして、相沢の視界の端から消えた。
男は不気味な笑いを浮かべて相沢に近づいて来る。胸のポケットに手をつっこみまさぐっている。何を出す気だ。相沢の額に脂汗が浮かぶ。男の手がさっと引き抜かれた。相沢は思わず、声を上げそうになった……あっ……ハンカチ。男は鼻をかんだ。
そのままハンカチをポケットにつっこみ、あらためて相沢を睨みすえる。そして一歩二歩肩を揺らして近づいた。拳が飛んだ。ぐっと奥歯を食いしばり衝撃に備えた。拳が触れたら大袈裟に仰け反って倒れてやろうと思っていたのだ。
しかし拳は相沢の一寸手前で止まっている。男がにやにやしながら言った。
「そうかい、そういうことかい。殴られて警察に突き出そうという魂胆だ。その手に乗るかよ。」
「いえいえ、そんな……」
怒声が飛ぶ。
「ざけんな、この野郎。顔にちゃんと書いてある。鯨井が言っていた。3分もしないうちにパトカーが駆けつけたってな。もう呼んでいるんだろう。」
図星を指され相沢が黙り込む。男はそれと察し、舌打ちして足早に出口に向かう。相沢は男の後を追う。フロントでは相沢を置去りにした岩井が林田に事情を話している。その二人を尻目に男はフロントで清算を済ませ、出口に向かった。
男は焦っているのかシューズボックスのキーがなかなか入らない。カチッと音がして、中から雪駄をとりだすと、それをつっかけて小走りに駆け出した。二人の警官がやってきたのはそれから一分と経っていない。
「どうしました。奴はまだ中ですか?」
そこで呆然と立ち尽くす相沢ら三人に声をかけてきた。林田はその警官と顔見知りらしくこれに答える。
「山ちゃん遅かったじゃないか。奴が出て行ってからほんの一分も経ってねえ。それよか、手柄立てるチャンスかもしれねえ。」
と言って例のクスリのことを告げた。二人の警官は色めき立ち、目を輝かせ、男を追って駐車場へと駆け出した。途中一人の警官がパトカーから小さな銀色のケースをつかみ出した。相沢も林も岩井も後を追うために裏口に回り、靴を履いて駆けた。大捕り物の現場に立ち会える、そんな興奮に駆られていたのだ。
三人が漸く駐車場に辿り着くと、警官たちは男の車をちょうど押さえたところだ。男がふて腐れながら車から降り立った。岩井が急に元気になり、お礼参りと言う言葉も忘れ、警官にクスリのありかを告げ口した。
山ちゃんと呼ばれた警官が興奮気味に言う。
「おい、こら、胸のポケットに入ってるものを出せ。隠そうたって、そうはいかん。分かっているんだ、早く出せ。」
良く見ると、山ちゃんは鯨井組
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