第五章 覚醒剤
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の上に成り立っていたなんて、あまりにも酷すぎる」
と、二人は泣くマネをして、林田が最後を締めくくる。
「これから、俺達は誰を頼りに生きていったらいいんだ」
朝の掛け合い漫才はこれでちょん。いつまでも付き合っている訳にはいかない。向井を起こそうと背中を向ける。その時、向井ががばっと起き上がった。目は血走っている。
「うわー、大変だ。あんなに刺青がはいってきちゃった」
と、叫んだ。驚いて見守る3人の視線に気付き、もじもじと照れ臭そうに言った。
「何だ、夢か、驚いた。次から次と刺青客が入ってくる夢を見ていたんだ」
思いは誰も同じである。皆、ことさら大きな声で笑いながらも、心から笑えなかった。
その日は昼も夜も何事もなく、3時の見回りが終わると、そうそうに個室に入ってソファに身を横たえた。遅番の清水郁子が起こしに来ないことを、そして早く夜が明けることを祈りつつ目を閉じた。
鎌田に起された。大きな顔が目の前にある。とうとう来たかと、一瞬不安が体中を駆け巡ったが、鎌田の笑顔を見て、ほっと胸を撫で下ろした。鎌田が口を開いた。
「今日は本部長の出勤日だから早く起きた方がいいですよ。早めに掃除させますから。そろそろ起きて下さい。」
鎌田は一人本部長に取り入っている。ここを仮眠所に使っていることも、いつかばらされるかもしれない。そんな不安もよぎったが、その時はその時である。フロントの更衣室を勝手に作り変えたことを、会社にばらしてやれ、と思った。
その日の帰り、久美子に出会った。とは言っても最初は久美子とは分からなかった。ハーレーが相沢の車の横にぴったりとついて並走していた。腹に響くエンジン音を聞きながら、ちらちらと視線を走らせた。ふと、鵜飼則子が言った言葉が蘇った。
「今日はジャガーではなくてハーレーダビッドソンですって。」
あっ、吉野久美子。相沢は走行車線を走るハーレーのライダーを見詰めた。その視線に気付きライダーのヘルメットが相沢の方に向いた。顔は見えないが、胸のふくらみから久美子に間違いない。右手でVサインを出し、すぐにアクセルをふかした。
ハーレーは相沢の車の前に位置を変え、暫く走っていた。しかし何を思ったか、久美子はお尻を上げ、後ろに突き出した。そして右手で尻をぺんぺんと叩いたのだ。そして一気に加速し、相沢の視界から消えた。
「なんだ、ありゃ。30女のすることか。」
相沢が呆然と呟いた。
翌日、相沢は出勤すると徹夜明けの林といつものように冗談を飛ばしあっていた。そこに清水郁子がコーヒーを三人分持ってきて仲間に加わる。経理の石田は早々に銀行回りにでかけ、2時間は戻ってこない。取引銀行は一行なのに何が銀行回りだか。
本部長がいれば一緒に行くが、今日は一人で羽を伸ばしにいくつもりのようだ。コンピューターにはす
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