暁 〜小説投稿サイト〜
愛しのヤクザ
第四章 パチプロ
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
いる。参ったと思った。
 と、突然、林田が下から駆け上がってきた。林田は、一目見て相沢の不利な点を見抜いたようだ。相沢と男の間に半身になって割って入った。そして言った。
「とっつあん、入場料は返してやっからよ、出ていってくれよ。とっつあんには世話になったけど、もう、俺だって我慢の限界だ。来るたんびに騒ぎを起している。さあ、出ていってくれよ」
 林田は男を睨みつけているが、いつになく真剣な眼差しが、どこか寂しげに映る。男はまたしても、不敵な笑みを浮かべていたが、ふんと鼻先で笑った。「そうかい」と呟き、ふーと長い吐息をもらした。そしてゆっくりと階段を下りて行き、ロッカー室に消えた。

 林田はじっとその後姿をみつめていたが、ふと、苦笑いを洩らし、重い口を開いた。
「あの人には随分世話になった。あの人はパチプロで、俺が稼げるようになったのは、あの人のお陰なんだ。でも、まあ、しょうがねえ。とっつあんも分かってくれたみてえだし。でも、林の奴、よっぽど悔しかったみてえだ。机につっぷして、くっくっくっって泣いていやがった。とっつあんと何かあったん?」
「いや、そうじゃない。事業本部長が、総務とコンピューターの仕事を石田経理課長にやらせろって言ってきた。それで悔しかったんだろう。つい、とっつあんに鬱憤を晴らしたんだと思う」
「何とまあ残酷なことを。あいつあんなに一生懸命やってきたのに。プログラマーになるなんて夢見てえなこと言ってた。まいったな、それは」
そこに、久美子が近付いてきて、相沢に言葉をかけてきた。
「相沢さんて、結構厳しいのね。誰だって酔っ払うことはあるわ。何もあんなに怒鳴らなくてもよかったじゃない」
どこか非難するような響きがある。くるりと背を向け更衣室へと消えた。当惑していると、林田が嬉しそうに声をかけてきた。
「課長、また振られちゃいましたね。まあ、彼女には彼女のなりの言い分ってもんが、あるんでしょう。今度会ったら、うまく説明しておきます。」
「彼女には彼女なりの言い分って?」
「課長は、久美子から何か聞きました?」
「何かって、何?二人の関係のこと?幼馴染とは聞いているけど」
「そうそう、幼馴染で、セックスフレンド。違う違う、そうじゃなくって、あいつの家のこと」
「いや、何も聞いていない。家が何かやっているの?」
「いえいえ、聞いていないなら、それはそれとして、いいんですが、まあ、あいつの家は地元の旧家で大地主ってとこです」

 二人が事務所に戻ると、向井と林が深刻そうな顔をつき合わせて話し合っている。漏れ聞こえる向井の発言で、石田との仕事の分担と今後の仕事の内容を話しているようだ。当の石田はというと、5時を過ぎたのでもう家路についたということだ。
 山本の個室も人の気配はなく、一緒に帰ったのかもしれない。まったく
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ