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愛しのヤクザ
第三章 鯨井組
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、ご免なさい」
林田が、五人のヤクザの間をすり抜け前に出て、相沢の横に立った。ニヒル男が怒鳴る。
「テメエは何だってんだ。横からちょろちょろ出てきやがって」
「いえ、私もフロアーの責任者ですので、お話を拝聴しようと思いまして……」
立ち上がりながら坊主頭が、林田に向かって怒鳴り散らす。
「すっこんでろ、この野郎、一人でも話が通じねんだ、話がややっこしくなる……」
相沢が、まあまあと坊主頭の肩に手をやると、思いっきり払いのけられたが、それで気が済んだのか林田をひと睨みして腰を落した。
フロントに目をやると林がカウンター越にちょこんと手を上げた。どうやら奥の手の準備が整ったようだ。一息入れ、相沢はゆっくりと話し始めた。
「何度も申し上げている通りですねえ、これは会社の方針ですので、私としてもこれ以上のことは申し上げられないのですよ。私は一介のサラリーマンですから、上からの指示に従うより他ないのです」
ニヒル野郎が下から見上げるようにして睨み、重たげに口を開いた。
「おいおい、さっきから聞いていればテメエの言い分はそればっかりじゃねえか。他に言い草はねえのか?」
相沢はマニュアルの隅から隅まで思い浮かべたが、それ以外の記述などどこを探しても見あたらない。しかたなく「ええ」と答えた。ニヒル野郎が睨め付けながら言う。
「それじゃあ、例えばの話だ。指に彼女のイニシャルの刺青をしていたとしよう。それを絆創膏貼って入った。お前はそいつをつまみ出すのか?」
固唾を飲んで返事を待つヤクザ達の熱い視線に気付かないわけでもなく、何か引っ掛け臭いと思ったがついつい口が滑った。
「まあ、小さなイニシャルくらいなら」
取り囲む皆の目が一瞬輝いた。しまった、やっぱり引っ掛けだ、と後悔したが後の祭りだ。
 ニヒル野郎が鷹揚に頷きながら、口を開いた。
「おうおう、そういうことだ。分かった、分かった。俺達も入場していいわけだ。絆創膏貼ってさえいれば、いいと、オメエはこう言うわけだ。なっ、そうだろう」
「そうは言っていません。小さなイニシャルぐらいなら、目をつぶると言ったんです」
「そうじゃねえだろう。オメエは絆創膏を貼って隠していれば刺青客を入れていてもいいといったんだ。そうだろう、そうじゃねえとは言わせねえぞ」
怒鳴り声とともにバンとテーブルを叩く。相沢と林田の体がピクンと浮いた。そして一斉に怒声の大合唱だ。ヤクザにとって話の内容などどうでも良いのだ。要は相手に恐怖心を抱かせること。早う金を包んで出せて言っている。一人一万、色を付けて10万か、などという思考が脳裏を掠める。
 しかし、会社の方針で、それが出来ない以上、議論には負けられない。小さなイニシャルと刺青の違いなどというくだらない議論が続く。口角泡を飛ばしての遣り取りで相沢も次第に熱くなっていっ
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