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愛しのヤクザ
第二章 肩代わり
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こいなのだ。フロントのそばなので何かあった場合、すぐ対処できる。向井にもそこで仮眠を取るよう勧めたが、さすがに怖いらしく使っていない。

 この個室にはコピーファックス兼用機、応接、そして狭い部屋には不釣合いなほど豪華な机がでんとすえられていた。相沢も山本が何をしているのかちょっと内部を探ってみたのだ。しかし、机の引出から棚の扉まで全て鍵がかけられていた。
 また、調理長の言った秘書こと、石田経理課長は、現地採用の社員だが、あれよあれよという間に山本に取り入り、経理課長のポストを射とめ、山本の後ろ盾をいいことに女帝のごとく振舞っている。相沢より二歳年上、二人の子持ちである。
「さて、休憩終了。京子ちゃんと代わるわね」
則子が立ち上がりフロントに消えると、向井と石塚も連れ立って帰っていった。林はパソコンのスイッチを入れて給与計算プログラムを立ち上げている。相沢と林田は暫く話していたが、それも飽きてそれぞれ夜の見回りに出かけた。

 既に23時を過ぎ、日曜の深夜ということもあり、さすがに閑散としている。朝の4時まで開いている喫茶店では何人かの若者がビールを飲んでいるが、彼ら以外は皆、休憩室で寝静まっている。
 隣のスーパーの社員達もしばしばここを利用する。家に帰らず健康ランドに泊まって、ゆっくり飲み、翌日出勤するのだ。スーパーの店長、片桐は単身赴任なので、しょっちゅう泊まる。その片桐はまだ来ていない。明日の売り出しの準備がまだ終わらないのだろう。
 何が何やら分からぬまま、あたふたと時はすぎてゆく。降格人事の屈辱を感じる暇もないくらいの現実が目の前にあり、それを片付けるとまた別の現実が待ち受けている。唯一まだ体験していないのが本物のヤクザとの対決だ。
 刺青客の対応は何度か経験したが、さほどの騒動にはならなかった。今日からの二日間、頼りの向井支配人がいない。鎌田副支配人はトラブルを避けて通ろうとしている。自分がしっかりしなければならない。
 夜は深深と更けてゆき、不気味なほど静まり返っている。何事もなく過ぎることを心の中で念じながら、林田のいるであろうゲームセンターへと足を向けた。遠くで「いらっしゃいませ」という則子の声が響く。聞き耳を立てるが、その後の則子の声は聞こえてこない。不安が脳裏をかすめ、心臓の鼓動が内側からどきんと胸を打った。

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