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愛しのヤクザ
第二章 肩代わり
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若い女が妻子ある重みのある男に体を投げ出す時代なんですよ。だからこうして財布の中に……」
と言いながら財布の中からコンドームを取り出して見せた。みな大笑いで、今度は林が林田の頭を小突いた。
「この体の何処に、その重みってやつがあるって言うんだ。何処にも見あたらねえよ。重みというより、単なるずうずうしさじゃねえの」

 そこへ石塚調理長が入ってきた。石塚は仕事を終えると一風呂浴び必ず事務所に顔を出す。
林田の笑い声を聞きつけ、石塚が仲間に加わる。
「おい、おい、林田君。君はまた、すけべ話をしてるんだろう。調理場に来ては、すけべ話、風呂に入ればまた、すけべ話、ほかにないのかね、話題というものが」
林田が言い返す。
「何を仰いますか、調理長。僕の話を一番喜んでくれるのは調理長じゃないですか」
 厨房の二番手、内村に言わせると、最近、調理長はサラリーマンのような言葉使いに凝っているらしい。内村は、調理長が仕入れ業者に「何々君」と君付けで呼ぶたびに、背筋がぞくぞくすると言う。

 調理長は、体つきも何も、向井と正反対で、細身で上背があり、なかなかの二枚目で、鏡の中の自分に見惚れることがあるとぬけぬけと言う。向井とは同じ年で気が合うようだ。笑うと目が一本の線になってしまう。その笑顔を見せながら調理長が切り出した。
「話は変るけど、課長、あの山本統括事業本部長、何とかならない。週に一度来て、個室に篭って何しているか知らないけど、本部長用の昼飯を特別に作らせるっていうのは、おかしいよ。あの秘書みたいな女が取りに来るんだ。まだかって顔して。みんなと同じ仕出し弁当にしてくれないかな」
相沢は困惑顔で答えた。
「秘書じゃなくて、彼女は経理課長です。まあ、実質秘書みたいなもんですけど。でも、しかたないんですよ。あの人はレストランや喫茶の直轄事業の統括で、この事業部の部長も兼ねています。若いのに役員候補だそうです。確か支配人より2歳下ですよね」
向井もこの年下の上司が嫌いらしい。
「ここは本部じゃない。ばりばりの現場、しかも健康ランドだ。昼時、厨房は一番忙しいのに、何考えているのやら。でも、さすがに僕も言いずらい。でも、不思議だよね。あの個室で何をやっているんだろう」
林田がこともなげに結論を下す。
「やっぱり、あれじゃないですか。男が一人でやると言えば、マス。これしかないでしょう。でも、お似合いですよね、あの暗い顔して、マスかいている姿」
がはは、という笑い声でこの話はちょんとなったが、確かに不思議なのである。山本統括事業本部長の個室は本来フロント嬢の休憩所だったが、工事の途中で自分の個室に作り変えてしまった。鍵を掛けて誰も入れないようにしてある。
 しかし、相沢はふかふかなソファーが運び込まれるのを見て、密かに合鍵を作らせた。仮眠所にはもて
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