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愛しのヤクザ
第二章 肩代わり
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途中、則子の歯切れのいい啖呵を耳にした。
「おっさん、いい加減におし。女だと思って、甘く見るんじゃないよ。さあ、殴れるものなら、殴ってみな。えっ、どうしたのよ。早く殴りなよ。」
男に顔を近付けるだけ近付け、睨みつけ、そして続けた。
「ふん、どうしたのさ。さっきの元気はどこに行ったんだい。殴る勇気もないって言うんか?えー。それだったら、最初から絡んだりするんじゃないよ」
その時、相沢が駆けつけ、お客にひた謝りして事のなきをえたのだ。則子はお帰り頂くことになったそのお客に、けろっとして「またどうぞ」などと、にこにこして挨拶をしていた。
 その後、則子が相沢に言った言葉がふるっている。近すぎる相手を殴るのは技術がいる。技術のある奴は、女の壊れそうな顔を殴るには勇気がいると言うのである。相沢は空手をやっていたから、その意味がよく分かる。

 則子は24歳、和歌山県出身で、東京の片田舎で一人住まい。不思議な雰囲気を漂わせている。林田が、さっきから則子の過去を聞きだそうとしていた。
「本当のことを話せば楽になるんだから、早くゲロしなさいって。何で和歌山から逃げてきたん?和歌山の片田舎で居ずらくなるようなこと、しでかしたんじゃねえの?」
「逃げてきたなんて人聞きがわるい。何も理由なんてないわ。それに、私は貴方達が想像しているような不良でもなんでもないしー…」
今度は林だ。
「あやしいな、絶対何かある。もし東京に憧れたんなら、同じ水商売だし、原宿と六本木とかで働いて、そんで、あんなぼろアパートじゃなくって、洒落たマンションかなんかに住むってのが、田舎出の女の思考パターンだよ。」
「あら、何でぼろアパートって知っているの?」
こう切り返され、林は耳まで真っ赤になって困惑の表情だ。それに気付いた林田は林の頭を小突いた。
「この野郎、家までつけやがったな。きったねえ。抜け駆けしやがって」
「そんなことしてねえよ、つけるだなんて。俺はただ、住所録を調べて休みの日に行ってみただけだよ」
しゃあしゃあと本当のことを話す林に、林田は
「まったくこいつは、隅に置けないんだから。ちぃっちゃいなりして、すけべ心だけはでっかいんだ。それで前の奥さんも逃げ出したんだろう。子供も捨てて」
「そんなことねえよ。本屋潰して借金取りが押しかけて来たんで逃げ出したんだよ」
二人のやり取りをにやにやと聞いていた向井が割って入った。
「林田君。抜け駆けって言うけど、君には奥さんがいるだろう。少なくとも立候補出来るのは相沢課長と林君だ。君には関係ないと思うけど」
人差し指を左右に振り、チッチッチと舌を鳴らし、林田が答えた。
「支配人は古すぎます。時代は刻一刻と変化してんですから、支配人の時代のモラルを僕ら若人に押し付けようとしても無駄と言うものです。今の時代はですねえ、
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