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愛しのヤクザ
第二章 肩代わり
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だろうね。昨日なんて、昼飯食って、ちょっとうとうとしていたと思ったら、もう夕方なんで吃驚したよ。兎に角、課長のせっかくのお言葉だから」
「是非そうして下さい。もう年なんだから無理はできませんよ。今日はこれから帰って、あの美人の奥さんと一杯やって下さい」
「美人だなんて…。でも、女房が聞いたら喜ぶ。伝えておくよ」
「それから、今日は僕の番じゃないけど、鎌田副支配人も帰ったし、僕が泊まることにします。それにハヤシコンビも来ると言っていますから」
「えっ、林が。しかし、林はタフだね。あいつ昨日も泊まらなかった?」
確かに林はタフなのである。体は小さく細いが、元フェザー級のボクサーで、ここに入る以前は24時間営業の激安雑貨店の店長だった。その前は本屋を開業して潰している。斜陽産業とは知らず投資してしまったと笑いながら話していた。まだ、借金があるらしい。
 もう一人、コンビの片割れ、林田は有名なスチール家具メーカーの西関東支店の課長だったが、上司と喧嘩して辞め、ここに就職が決まるまでの6ヶ月間、出勤する振りをして、パチンコで稼いでいたというから凄い。林田は既婚者で子供が二人いる。
 今日、この二人が泊まりを志願した魂胆は見え見えだった。鵜飼則子が深夜番なのである。二人は則子に何かとちょっかいを出しているようだ。その則子もそろそろ裏のフロントに入るはずである。

 向井は、何だかんだと仕事を見つけ、結局帰り支度をして事務所に現れたのは22時を過ぎた頃だ。相沢はハヤシコンビとビールを飲み、向井の話題で盛り上がっていた。向井は椅子にどっかりと座ると話に加わった。
「そんなに、おかしかった?昨日の俺の顔。まったく人の気も知らないで、林は転げまわって笑っているし、相沢課長は笑いを噛み殺しているし。終いにはあの刺青までにやにやして引き上げていった」
林田が残念そうに顔で言った。
「俺も見たかったなー、支配人のその顔。しっかり脳裏に焼き付けて、時々取り出してはほくそえむの。本当に支配人は何をやっても絵になるんだから」
 そこへ鵜飼則子が入り口から顔を出し、声をかけてきた。
「わー、いいな、男ばっか、ビール飲んで。私も飲みたい」
向井が答えた。
「フロント嬢が酒臭くてどうするの。コーラならいいよ。冷蔵庫にあるから飲んだら。少し休憩して」
則子も仲間に加わった。ハヤシコンビの目が一際輝く。則子は男達の関心の的だ。美人でスタイルがよく、しかも若い割りに妙に度胸が据わっているのである。相沢の目撃したシーンはまさにそんな則子の一面を垣間見るものであった。

 それは一週間前のことだ。深夜、酔っ払いが入場してきた。則子は、泥酔と判断し入浴はご遠慮下さいと言ったらしい。酔っ払いはこれに激昂した。掴みかからんばかりに怒鳴り散らし、絡んだのだ。相沢は階段を下りる
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