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愛しのヤクザ
第一章 カーチェイス
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子の声を聞くと、目を輝かせて階段を下りてきた。そしてぼーっとつっ立っている相沢を前にして、まず林田が則子に向かって第一声を発する。
「そのハヤシコンビは止めてよ。こんな奴といっしょくたに、しねえでもらいてえ。こいつとは、赤の他人なんだから。それよっか、課長、何かあったん?」
相沢がようやく自分を取り戻した。
「いや、その、何でもない……」
林田が視線を則子に向けると、則子は外人のように肩をすくませた。林田が言う。
「課長、何があったか知りませんが、元気出してくださいよ。こっちは課長だけが頼りなんだから、課長が落ち込んじゃあ、こっちは、(しかばね)になっちまう。」
林も林田に負けじと声を張り上げる。
「課長、どうしたんですか、その顔。世の不幸を一身に背負ったみたいな顔しちゃって。考えすぎない方がいいですって。考えたって何も良くはならないに決まってんだから、だったら考えない方がいいってことですよ」
 二人は現地採用の社員である。年が近いこともあり、特に親しくしている。相沢も二人の陽気なお喋りに漸く気も落ち着いてきた。
「別に落ち込んでなんていないさ。今のお客、本当に厭みな奴なんだ。とにかく厭なお客っているじゃないか?あの女、あの年でジャガーなんて乗り回しているんだ。ここに来るとき、車でトラブったんだ。全く今時の若い者ときたら、何様のつもりなんだ。」
林田が怪訝な声を上げた。
「ジャガーだって?」
「うん、ジャガー。林田さん心当たりあるの?」
「いや、別に……」
その時、則子が相沢に声を掛けた。
「それはそうと、相沢さん。相沢さんがどう思ってるかは知らないけど、それとってもよく似合う」
相沢はハッピのことは忘れていた。則子は意地悪そうな視線を向け、にっと笑った。


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