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愛しのヤクザ
第一章 カーチェイス
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を開けてフロントに出た。

 鵜飼則子が眠そうな目を前方に向けて、ぼーっと立ちつくしている。則子は立ったまま眠る特技の持ち主だ。にこりとして相沢が話しかけた。
「どうだい、似合うだろう?」
鵜飼は、何度か瞬きして目覚めると相沢に焦点を合わせた。ようやく相沢を認めると、どうでもいいといった調子で答えた。
「まあね、でも、その色、センスがないわね。真っ青なんて。それに真っ赤な文字。ハッピはいなせなものなのに、まるでスーパーのバーゲンって感じ。まあ、しかたないか、元がスーパーなんだから」
 相沢はハッピそのものを評価する則子の視線に安堵し、一回りも年下の流れ者に言い知れぬ親しみを覚えた。ましてハッピ作成にしつこく反対する相沢に一人同調してくれたことを思い出したのだ。と、急に則子がしゃきっと胸を張り声を張り上げた。
「いらっしゃいませ、こちらでキーをお受け取り下さい。入場料は1200円でございます」
見ると、ボーイッシュな女が下足キーを持ってカウンターに近付いて来る。相沢も気持ちを切り替えて、「いらっしゃいませ」と声をだしてお客を迎えた。則子が受付をしている間、その女は相沢を睨んでいる。不審に思ったがとりあえず笑顔を返した。すると女が、胸元からサングラスを取り出してくるくる回し始めた。
 相沢はしばらくそのサングラスを何気なく見ていたが、突然、雷にでも打たれたように体が跳ねた。「やばー」と思っているうちに冷や汗が脇の下を伝う。謝るとか、どう繕うかなど思いも及ばず、顔面蒼白になってひたすら立ち尽くすのみである。
 則子からロッカーキーを受け取ると、女は相沢に近付き、低く冷たい声を発した。
「さっきの人ね、まったく頭にきたわ。どんなに怖かったか分かる?あんなことしていると、いつか命落すわよ」
そして、相沢を頭の天辺からつま先まで眺め、続けた。
「いい年した男が、なによあれ。ハッピ着て、いらっしゃいませって頭下げている男がやることかよ」
 この言葉は、相沢の心にぐさりと刺さり致命傷を負わせた。「いい年をした」も「ハッピ着て」も「頭をさげて」も、どれも相沢のプライドをずたずたに切り裂いた。その場に倒れ込まなかったことが不思議なくらいだ。相沢は呆然と立ち尽くした。女はその場を去ってロッカー室に消えた。則子がカウンター越に声をかけてきた。
「何かあったの、あの人と?でも、あんな美人とならどんな係わり合いでも、グーじゃない」
 相沢はこの言葉を聞いていなかった。いや、聞こえなかったのだ。則子の口がぱくぱくと動くのを見ていただけだ。則子は見かねて、二階から降りてくる林田と林のハヤシコンビに向かって声を張り上げた。
「ねん、そこのハヤシコンビ、早く来て。本部の課長さんが落ち込んで、今にも死にそうよ。早く来て自尊心をくすぐってあげて」
 林田と林は則
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