黄巾の章
第20話 「貴方は、悲しみを背負う……ただの『人間(ひと)』なのだから」
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ゆっくりと……短刀が頭上に上がる。
それが原因なの?
それで苦しんでいるの?
「それでも……誰かを殺すなら……」
彼の顔が激しく歪む。
その短刀が振り下ろされようとして。
それなら……そんなに苦しいのなら。
いいよ。
「私を殺して……最後にしてください」
私は、微笑み――目を閉じた。
――カシャン
盾二さんの手から……短刀が落ちる。
「あ……ああ……ああああああああああああああああ!」
盾二さんが涙を流して……蹲る。
盾二、さん……
私は目を開き、彼の肩を……抱きしめた。
彼は顔を覆い、涙を流しながら……呟く。
「お、俺……おれ、は……『バケモノ』……だ……」
ドクンッ!
盾二さんの言葉に、私の胸が締め付けられる。
――バケモノ。
その言葉に、私の心が激しく痛む。
それはかつて、私が……彼に対して抱いていた、言葉。
それはきっと……全てを縛る、呪いの言葉。
だから……だから私は呟いた。
「違うよ……」
私の頬に涙がつたう。
そう。盾二さんは……ううん、ご主人様は……
「ご主人様は……盾二さんは……バケモノなんかじゃない」
ご主人様を抱きしめて……優しく頭を撫でる。
ああ……
私はこの人が――愛おしい。
「貴方は、悲しみを背負う……ただの『人間』なのだから」
その言葉に――
まるで、幼子が赦しを請うように……
まるで咎人が、己が罪を嘆くように……
私の胸で――
―― 孫策 side ――
わたしは……今見ているこの光景を、たぶん一生忘れないだろう。
ツン、と鼻につく血と肉と家屋が焦げる臭気の中。
周辺は、血と肉片と物言わぬ死体の海。
でも、その場所は……その場所だけは、そんな血生臭い臭気から隔離されていて――
いつの間にか闇夜は薄れ、紫色の空が白み始めている。
東の地平線から光が差しこみ、その光が……二人を包む。
朝日の光に照らされたその姿は、まるで……
「……きれい」
泣き叫び、赦しを請う悪鬼羅刹を胸に抱き、彼を慈しむ女神……伝説の西王母のように視えて。
わたしは自然に、涙が溢れた。
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