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ヴァレンタインから一週間
第23話 君の名を呼ぶ
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 多分、最初にも言ったように、この頭を押さえ付けられたような感覚をもたらせる、どんよりとした重い雲と、そこから降りしきる細い雨が、俺の気分を因り陰鬱な物に変えている。
 ただ、それだけの事だとは思いますが……。

「……それは、仕方がないわね」

 まるで、自分にも何か思い当たる部分が有ったのか、先ほどの火柱を噴き上げた直後の活火山のような気配が消えて、その台詞を発した瞬間のハルヒからは、少ししんみりとした雰囲気が流れて来ました。
 成るほど。少なくとも、傍らで見て居て飽きない相手で有る事は間違いないでしょう。この涼宮ハルヒと言う名前の少女は。

 しかし、そんな事をぼんやりと考えていた俺に対して、実に彼女(ハルヒ)らしい言葉が叩き付けられた。
 もっとも、持ち上げてから落とす。関西人の言葉のキャッチボールでは基本形の組み立てなのですが。

「仕方がないから、あたしが友達になって上げても良いわよ」

 少し笑って仕舞うような上から目線の一言。
 但し、子分ではなく人間としての同格扱いの友達ですか。その点に関しては、落ち込んでいる雰囲気の俺の事を気遣ってくれた、と言う事なのでしょうか。

 それとも、
 俺は、俺の正面で、腕を胸の前で組んだ姿勢のまま、俺を睨み付けている少女を改めて見つめ返す。
 見た目通りのかなりの美少女。それに、おそらく頭も良い。

 何故ならば、この短い付き合いの時間だけで、俺と言う人間の本質をある程度掴んでいる、と言う事でしょうから。

「何よ!」

 答えを返そうとしない俺に焦れたのか、そう問い掛けて来るハルヒ。

 そう。多分、彼女は有る程度、俺の本質を掴んでいる。
 パッと見は無愛想。しかし、話して見ると結構愛想も良く八方美人タイプ。
 但し、一歩踏み込むと一歩逃げると言う、自分のテリトリーに他人が侵入して来る事を実は嫌っているタイプの人間。

 犬タイプの人間に見えるけど、本質は猫。手を差し出した瞬間に、その手の先からするりと逃げて仕舞う。

「それは楽しいな。たった一人でも友達が出来たのならば、人は変わる事が出来るからな」

 少しの空白の後、俺はそう答えた。今回の彼女の言葉は、ハルヒなりに気を使って言ってくれた言葉のはずですから、茶化すのも問題が有ります。

 但し、その俺の言葉の後に続く奇妙な空白。
 通行人さえ通る事のない図書館の端っこに相応しい静寂と、そして、音も立てず窓ガラスを叩く雨粒の雰囲気のみが周囲を支配した。

 そして、
 そして、何故か、訝しげな瞳で俺の事を見つめて居たハルヒでしたが、しかし、今回は何のツッコミを入れて来る事もなく、

「それだったら、友達に名前を教えないのは不自然よね」

 ……と、割と普通の台詞を
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