第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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殿?」
新城は丁重な口調で義理堅い天龍に尋ねる――が、彼はどのような答えが返ってくるのか半ば確信していた。
『この数日、北方の船の流れが明らかに変わっています。美名津に集中して大型船が集まり始めているようです。彼方は一足先に準備を整えつつある様ですな。』
――予想以上に早い、猶予は後数日といったところか。
「――調練を急がせるとしよう。首席幕僚、申しわけないが休みは行軍前までは無しだ。」
七月二日 午前第八刻 独立混成第十四聯隊本部官舎
独立混成第十四聯隊 聯隊長 馬堂豊久中佐
再び響いた銃声に米山大尉は眉をしかめた。
「あぁ、まだやってるのか」
官舎から裏の訓練場に回ると、彼が探していた聯隊長が最後の一発を撃ったところだったのだろう、輪胴に玉薬を注いでいるところであった。
「聯隊長殿」
数度の聯隊全力訓練もある程度の水準まで達したこともあり、聯隊長である馬堂豊久は上機嫌に米山に云った
「ん?――米山か。どうだ、悪くないだろ?」
そういって的に視線を向ける。
「えー、二十二、いえ三発も命中してますね、」
「そうか、三十発中二十三か、まだ要修行だな」と馬堂中佐は肩を竦めていった。
「――で?どうした、本部から何かあったのか?」
「はい、聯隊長殿。どうやら統帥部から導術連絡が入った様です。
首席幕僚殿からすぐにお戻りいただきたいとのことです」
「統帥部――笹嶋さんか、何かあったな」
水軍の軍令機関に勤めている“友人”を脳裏に思い浮かべた聯隊長は口元を引き締めて云った。
「私の経験上、ろくでもない事だと思いますね」
そう云いながら米山が苦いものが多分に混じった笑みを浮かべると聯隊長もまったくおなじ笑みを浮かべて答えた。
「奇遇だな、俺も同じ考えだよ」
・
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「――遅くなった、何事だ?」
副官を引き連れて聯隊長が入室すると首席幕僚は素早く書付を差し出した。
「こちらです」
“美名津周辺海域ニテ戦列艦隊ガ集結シツツアリ
〈帝国〉軍来寇ノ可能性ガ大ナリヤ”
「ハハハ流石は笹嶋中佐だ。たった二行の書付で俺の胃を痛めつけてくれる」
口元を引き攣らせながら聯隊長が笑う。
「自棄にならないで下さい――しかし、連中、予想外に早いですね」
初夏の暑気の所為か、はたまた彼も動揺しているのか頬を流れる汗を拭いながら大辺も呻いた。
「やれやれ――これじゃあ予想外に順調って思ってた戦力化の進捗状況も怪しいもんになっちまったな」
馬堂豊久聯隊長は首席幕僚と視線を交わし、溜息をついた。
「――本来なら、ここまででどうにか聯隊全力訓練までこぎつけられたことも大成果なのですがね」
どうにか聯隊の戦力化への一区切りである聯隊全力訓練の域に辿り着いたこと
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