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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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政界再編時に勢力を作るにはうってつけだ。戦後の事を考えるのならば何としても死なせてはならん――それに、茜も流石に婿が前線に送られるのは不安らしい。一度、消息不明になったのだから当然だがね。
――ま、そうしたわけだ。こちらも協力するから可能な限り早めに皇都に戻させよう」
 豊守も苦い顔で頷く。
「まったくもって同意見ですがね。ですが、また軍監本部に戻すのは難しいです、前線で使える将校が少ないですからね。若殿様は今年を凌げば大佐にさせるつもりのようです。その際に配置を変える事も出来ますが――当分は北領の英雄を信じるしかないでしょう」と言った。
「――まったく、戦争など実に割に合わんモノだ」
「同感ですな――えぇまったく同感ですよ」
二人の高級官僚はともに溜息をついた。



七月一日 午前第十刻 近衛衆兵鉄虎第五〇一大隊営庭
鉄虎第五○一大隊 大隊長 新城直衛少佐


 今で碌に言葉を交わしていない副官から渡された資料に目を通す。
「新設された、え〜捜索中隊を含めた大隊全力での集団訓練はあと五日程で取り掛かる事取り掛かる事が出来ます」
 藤森大尉が帳面を睨みつけながら報告する内容も書類のそれと合致していた。

「五日か、多少は希望が見えてきたな。」
 ――まだ二週間は時間がある筈だ。
悲観的な新城にしてもそれだけの時間は最低でも得られると確信していた。だがけしてそれ以上は期待していない。
「塩野大尉の中隊は禁士隊の首席幕僚殿がお墨付きを出しただけあって、中々大したものですが、少々、他の部隊で進捗に少々遅れが出始めています」
 時間の不足を補う為に新城はあれこれと工夫を凝らしていた。
例えば、新城が考案し、先日完成した偽装用の野戦服は非常に良好な効果を示した一例であった。
 後備部隊や新編部隊の充足に予算をとられている事もあってか近衛の正式採用は見送られたが、代わりに某金満将家の陸軍中佐が伝手を利用し、陸軍の剣虎兵部隊における試験採用の認可を陸軍局から勝ち取ったのである。
そして現在では既存の剣虎兵部隊ではなかなか良い評判を受けており、剣虎兵将校の中では新城の手腕に対する評価は非常に高いものになっている。当然ながら新城の大隊にも剣虎兵用として一部の予算が割り当てられている。
「疲れか?」
 いくら工夫を凝らしても結局は兵が苦労するのは間違いない。これまで足踏みなく進んできたのだ、そろそろ兵の方に無理が出てきてしまってもおかしくない事は新城も承知している。

「えぇ、恐らくは。寧ろこれまでよくもった方でしょうな」と藤森は無愛想に肩を竦める。

「休みを増やすのも一つの手かもしれない。その時間があればの話だが」

『それは難しい問題でしょうね』
 頭に声が響いた。
「どういう事でしょうか、坂東
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