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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第四十一話 さぁ、仕上げを御覧じろ
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ではいよいよ始めようではないか!」



六月ニ十日 午後第二刻 衆民院本会議場 傍聴席
兵部大臣官房総務課理事官 馬堂豊守准将


 さて、兵部大臣官房総務課は国防政策に関する総合調整だけではなく、広報や衆民院への対策も担っている。
 大臣官房総務課の次席である馬堂豊守理事官は眼前で質問状を朗読している議員をぼんやりと眺めていた。
龍州州議会の議員を経て国政に出馬した衆民院第一与党である皇民本党の議員である。
政党の広報担当者なのか彼が個人的に雇っているのかは分からないが、傍聴席に座っている画家が熱心にその光景を描いている。
「――この度の<帝国>軍侵攻に対し、我々は予備予算の全面支出のみならず、緊急予算の編成をも可決するべき動議をおこなっております。ですが、来るべき<帝国>の内地侵攻において最前線となる可能性が高い龍州は農耕地帯であり、(大協約)の庇護下にない農村も少なくありません。
そうした農民達に対する<帝国>兵の略奪行為に対する対策をお伺いさせていただきます」

「安東兵部大臣」
議長の声に安東吉光東州伯爵が立ち上がり、演台へ進む。
「今回の内地侵攻に際しては、水際で食い止める事が第一であります。
ですが万が一、虎城山地まで防衛線の緊縮を龍州鎮台司令部が判断した際には、大前提として、避難支援はて軍の後衛戦闘と並行し、被害を出さずに行うかが肝要となるであろうと兵部省としては考えております。そのため軍司令部は後衛戦闘の指揮を最優先とせざるをえず、後方の避難支援に関しましては、平時において治安、交通を管制している龍州警務本部に一任し、協力して行動するべきであると判断いたしました。国家の一大事である現状において、兵部省といたしましても、関係省庁と緊密な関係を築き、対応していくべきであると考えております」
 まばらな拍手を受け、兵部大臣は演台から降りる。
「宮原内務大臣」
 議長の呼び声に今度はどこか萎びた植物を思わせる老官僚が立ち上がり、先程まで安東兵部大臣が立っていた演壇へと登る。
「警保局からの報告によると――」
 総務課の作った文面どおりに兵部大臣の答弁が終わったことを見届けた馬道豊守理事官は満足そうに笑みを浮かべ、傍聴席を立った。



「衆民院もようやく通りましたな」
 機嫌良さそうに馬堂豊守が寛ぎながら言った。彼は総務課理事官として兵部大臣の答弁文書を作成したこともあり、衆民院対策の為にここを訪れていたのである。
 ここは執政委員控室――要するに高級官僚たちが事前に省庁間の答弁の擦りあわせや、議員との交流を行うために作られた部屋の一角である。

 対面に座った弓月内務勅任参事官は上機嫌にそれに答えた。
「うむ、内務省が主導して行う事になるが構わないだろう?州政局の者達も随分と
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