第三十話 江田島その五
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その砲台の右にある吊るされたボート達を指し示しそれで言ったのだ。
「あのボート達ですが」
「あっ、短艇ですね」
生徒の一人が言った。
「ボートじゃなくて」
「御存知ですか」
「はい、俺の父ちゃん海が好きで」
それでだというのだ。
「よく俺に船のこと教えてくれるんです」
「短艇のこともですね」
「あれ手で漕ぐんですよね」
「そうです」
その通りだというのだ。
「あれに乗ってそれでなんです」
「訓練をされるんですね」
「この学校だと毎週休みは漕いでます」
「授業で、ですか?」
「いえ、課外の訓練です」
それで漕いでいるというのだ。
「何時総短艇があるかわからないですから」
「総短艇?」
「それって何ですか?」
「この学校の名物でして」
つまり海上自衛隊幹部候補生学校のだというのだ。
「朝とか昼休みとか夕方にかかるんです」
「その総短艇とやらがですか」
「そうです、放送で総員待てと言われまして」
そこからだというのだ。
「それでそこから全員であそこに全速力で行って短艇を下ろして競走するんです」
「あの、それってまさか」
ここで一年の女の子が問うた。
「朝起きてすぐにもですか?」
「はい、実は朝が多いです」
その総短艇がかかるのは、というのだ。
「朝の六時に総員起床ですけれど」
「その起きた時ですか」
「朝にいきなり」
「放送がかかってそこから全速力です」
まさに起きた直後にだというのだ。
「隊舎からあそこまで全速力で駆けてそうしてそれぞれの短艇を下ろして漕いで競走なんです」
「うわ、朝からって」
「それもいきなりなんですね」
「訓練ですから」
自衛官は話を聞いて唖然とする学生達に平然と、しかし何処かどや顔も入れてそのうえで言ったのだった。
「それも当然です」
「朝起きてすぐですか」
「訓練をするのもなんですか」
「即応態勢は常に取っています」
ここでもどや顔が入っていた。
「国民の皆さんを守る為に」
「おお、それは有り難いですね」
「俺なんか自衛隊の人達好きになりました」
「俺もです」
「私もなんか」
「国防は任せて下さい」
自衛官は満面の笑顔にもなった。
「例え何が来ても皆さんも国土も守り抜きます」
「円谷さんとのところの怪獣が来てもですか?」
ここで一人が冗談でこう言う。
「ああいうのが出ても」
「あっ、それですか」
「はい、ゴジラとかバルタン星人が来てもですか?」
「全滅はしますが」
これは映画やテレビである通りだ、勝てた試しがない。
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