第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
十年前の亡霊
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嫌な汗が全身から噴き出し、その場から一歩も動けなくなってしまったからだ。まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
「な、なん――――ひっ!?」
いつの間にか、ミンスの目の前にアルシェイラが立っていた。
その表情は能面のように何も映していないが、身体からにじみ出る殺意がミンスの動きを止めていた。
「こいつがいる限り……なに?」
危なく、錬金鋼を取り落とすところだったミンスは、慌てて腕に剄を回して、アルシェイラに警告する。
「う、動けば衝剄でコイツを内部から破壊する!! 脅しではな――」
「黙れ」
ゴッ!! と凄まじい音がして、ミンスの意識が一瞬断絶した。
肉弾戦に特化したサヴァリスでも、今の攻撃を避けるのは難しいであろう。 案の定、吹っ飛ばされ床を滑っていくミンスにアルシェイラはゆっくりと歩きながら追う。
ミンスが死ななかったのは、直前でアルシェイラが拳を寸止めしたおかげであろう。それがなければ頭が砕かれ、ミンスは愉快な死体の仲間入りを果たしていただろう。
吹き飛んだミンスはおよそ三十メートルほど飛ばされていた。
「ガァッ!? な、な」
「今までは慈悲だった。ヘルダーが逃げたのはわたしのせいでもあったから、だからこそあんたを甘やかした」
一歩。
「ひっ!」
「最低限の権限と財力を持たせ、死なないように前線に出る覚悟がないならそのままでよかった」
二歩。
「く、来るな」
「変な策略を始めても、馬鹿なことはしないとタカを括ったからこそあんたはこんなことができた」
三歩。
「わ、私は」
「最低限の武芸者の誇りを持っていると信じていた」
四歩。
「ただ……ただ認めて欲しかった!」
「今更、遅いのよ」
五歩。
アルシェラはたった五歩で、いや五歩も、と言ったほうがいいか。三十メートルの距離を縮めた。
後は、拳を振り下ろせば終わるのだが、そんなアルシェイラの手を高速で割り込んできたティグリスが止める。
「都市を壊す気かですかな?」
「ティグ爺……どいて、そいつを殺せない」
そんなアルシェイラの底冷えをするような声を聞きながらも、ティグリスは笑みを絶やさなかった。
ミンスは何か期待をするような目で、ティグリスを見る。だが、帰ってきた答えはミンスを再び凍りつかせた。
「女王陛下がやることではありませぬ。ちと、お灸を据えるのは老人の役目ですぞ」
ミンスは尻餅を付きながら、ズリズリと下がっていく。
そして、手に当たった物に気づき見ると、自分の錬金鋼であった。刀身はまだシキに突き刺さったままだ。
――殺せる。
ミンスはそう思って、錬金鋼を素早く掴んで衝剄を放とうとする……が、そこで違和感を感じた。アルシェイラやティグリスのほかに視線を感じるのだ。
天剣かと思ったが、天剣たちは
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